医療過誤の行政処分の動向

弁護士堀康司(常任理事)(2003年8月センターニュース185号情報センター日誌より)

7月から医師資質向上対策室が発足

  昨年12月、医道審議会医師分科会は「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」を発表し、刑事事件とならなかった医療過誤についても処分の対象とする方針を打ち出しました。

  その後、厚労省は、本年7月1日、医政局医事課に医師資質向上対策室を設置して、刑事事件とならなかった医療過誤についての処分の具体的内容について検討を開始しています。

処分申立件数はすでに30件前後に

  厚労省医政局医事課(電話:03-3595-2196直)から聴き取りをした結果では、1)同室には10名が配属されているが専従者はいない、2)医師に対する苦情受付そのものは同課試験免許室が取り扱い、医師資質向上対策室は刑事事件とならなかった医療過誤についての処分の枠組みを検討を進めている、3)処分の枠組みについては現時点では何も固まっていない、ということでした。

  なお、昨年12月の方針発表以後、被害者らからは既に30件前後の処分申立がなされているが、現時点では申立に関する書式等の様式は全く定まっていないとのことでしたので、問い合わせがあればその都度事情を聴き取りしているというような実情がうかがわれました。

患者の視点からの意見提出が急務

  医道審の処分方針に対しては、本年5月に日本産婦人科医会が要望書を提出し、「医療事故の多い産婦人科にとっては死活問題であり」「国の今回の方針の実施によって、今後は患者さん(被害者)への思いやりを考慮した妥協的解決はせずに、限りなく無責で、最終的には最高裁まで争う気構えで紛争解決への対応を執らざるを得ないと考え」「討議運用に際しては慎重を期すよう切に要望します」という意見を述べています。

  なお、この要望書は、いわゆるリピーターに対しては医道審が厳重な処罰をすべきと結論付けていますが、同時に患者からの処分申立には反対しており、リピーター把握のための具体的方策については全く触れていません。

  刑事事件とならなかった医療過誤についての行政処分については、何よりも患者の視点に立って運用を考えることが不可欠です。具体的には、1)医療安全に向けた事前の取り組みの有無、2)事故後の誠実な対応の有無、という2つ視点から検討を加え、医療の安全と被害者の救済に無関心な医療機関を排除するという方向性で運用がなされるべきです。またリピーターの把握には患者からの申立の受付が不可欠です。

  以上の観点から、現在、医療事故情報センターとしても早急に医道審に対して意見書を提出すべく準備を進めています。