安全と救済を誘導する行政処分基準の必要性

弁護士堀康司(常任理事)(2003年11月センターニュース188号情報センター日誌より)

医道審に意見書を提出

  本年9月30日、医療事故情報センターは医道審議会医道分科会と厚労省医事課に宛てて、「医師・歯科医師に対する行政処分の意見書」を提出しました。

  これは本年8月号の本欄でもお伝えしたように、国が医師・歯科医師の行政処分について処分基準を示すとともに、医師資質向上対策室を設置したことに対して、当センターの見解を示したものです。意見の要旨は、次の3点です。

刑事処分後追いからの脱却を

  まず、意見書では、刑事事件とならなかった医療過誤についても、一定の場合に行政処分の対象とする方針への賛意を示しました。

事前対応と事後対応の適否を重視した処分基準を

  次に、行政処分制度の具体的運用にあたっては、不誠実な医師を排除するとともに、医師に誠実な行動を促し、医療の安全と被害者の救済の双方を促進するように、次のような点を重視した処分基準の策定を行うよう求めました。

<処分基準として重視すべき要素>

1)事前の事故防止の努力の有無

2)被害者側に対する事故発生の事実に関する速やかな報告の有無

3)被害者側に対する事故発生後の速やかな診療録等の基礎資料の提供の有無

4)公正さの確保された組織による詳細な事実経過の調査の有無

5)被害者側に対する4)の調査結果の報告の有無

6)4)の調査結果に基づいて過誤が明らかになった事案における、被害者側に対する率直な謝罪の

   有無

7)4)の調査結果に基づく科学的かつ具体的な事故再発防止策の検討及びその実施の有無

8)過誤当事者となった医療従事者に対する安全研修、再教育プログラムの実施

9)被害者側に対する速やかかつ適切な損害賠償の有無

医師資質向上対策室への期待

  3点目として、厚労省が医師資質向上対策室を設置して患者からの苦情の受付に乗り出したことを前向きに評価した上で、今後は、受け付けた苦情に対する迅速かつ適切な対応がなされること、苦情を申し立てた人に対応結果の告知がなされること及び苦情対応結果全般について国民への説明がなされるべきであることを求めました。

まだ見えぬ医道審の姿勢

  医道審は本年8月1日に今年度上期の処分答申を行いましたが、患者から受け付けた苦情に基づく答申はなされておらず、現在もなお対応方針を検討中と報じられています。医療の安全と被害者の救済を両立させるような方針が打ち出されるよう、今後の医道審の動向を見守り続けたいと思います。