医療事故の自発的公表の進展~課題は医師不作為型?

弁護士堀康司(常任理事)(2004年9月センターニュース198号情報センター日誌より)

公表基準の制定の広がり

 事故情報の公表基準を明文化する動きについては本誌180号(2003年3月号)の本欄でも紹介しましたが、その後も公表基準制定の動きは急速に全国の医療機関に広がっており、把握できた限りでも次の病院がWeb上で公表基準を公開しています。

・横浜市立大学医学部附属病院(H13/2~)
・山形県立病院(H15/2~)
・市立四日市病院(H15/3~)
  http://www.city.yokkaichi.mie.jp/hospital/accident200405.html
・神奈川県立病院(H15/4~)
・愛媛県立病院(H15/4~)
 http://www.eph.pref.ehime.jp/oshirase/iryoujikokijun.pdf
・名古屋市立病院(H15/6~)
  公表基準に基づく医療事故の包括的公表
・名古屋市立大学病院(H15/6~)
  公表基準に基づく医療事故の包括的公表
・高知大学医学部附属病院(H15/10~)
 http://www.kochi-ms.ac.jp/~of_hsptl/anzenkanribu/jikokohyoukijyun.pdf

実際の公表例は作為型事故が中心

  最近では公表基準に基づいて実際に事故が公表される例も出てきました。三重県立病院ではすでに平成14年度と平成15年度の2年分の包括的公表を実施していますし、山形県立病院、名古屋市立病院及び名古屋市立大学病院もさきごろ公表基準作成後初めての包括的公表を実施しました。

  これらの公表例では、誤薬や機器・器具の操作ミス等のベッドサイドにおける作為型事故が中心となっており、院内事故報告制度が看護師の間に定着しつつあることがうかがわれます。

水面下に眠る不作為型事故

  他方、これらの公表例の中には、医師による画像見落とし、重篤度の見誤り、治療法選択の誤り等はほとんど含まれていません。医療過誤訴訟で頻繁に問題とされる医師による不作為型の医療事故は、医療機関内において「事故」として認知されていない可能性が濃厚です。

  医師の知識や能力そのものが問われる不作為型の医療事故は、作為型事故に比べて事故の発生そのものが院内で認知されにくい傾向があります。不作為型事故は医師本人が黙っていればわからない状態がなおも続いているとすれば、ヒヤリハットレポートや院内事故報告制度を充実させるだけでは、実態把握と対策実施が困難な医療事故類型があるということになります。

ピアレビューの充実が急務

 今後、各医療機関には、医師の不作為による病状の悪化についても医療事故として認識するとともに、死亡症例の定期的カンファレンス等を通じた積極的なピアレビュー(同僚評価)に取り組むことによって、不作為型の事故事例も院内で把握し、公表基準に従って適切に公表するという姿勢が望まれます。