医療過誤に対する行政処分の動向-民事訴訟判決に基づく処分と処分された医師に対する再教育-

弁護士園田理(常任理事)(2005年4月センターニュース205号情報センター日誌より)

民事訴訟判決に基づく行政処分

  医道審議会医道分科会は、平成14年12月、刑事事件とならなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などは、免許取消しや医業停止といった行政処分の対象とするとの方針を打ち出していましたが、去る平成17年3月2日、乱診乱療が問題となった富士見産婦人科事件の医師4名について、民事訴訟の判決が昨年7月に確定したのを受けて、初めて刑事訴訟の判決なしに行政処分を行うよう答申をなし、同日、厚生労働大臣は免許取消しを含む行政処分を行いました(なお、免許取消処分を受けた医師から処分取消訴訟が提起されています)。

民事訴訟判決待ちでいいか

  一歩前進と言えますが、問題はなお残っています。

  富士見産婦人科事件での行政処分は、民事訴訟の判決確定を待ち、問題発覚から25年も経過してようやくなされたものです。国民の健康な生活を確保するため、医業を行う資格を厳格に定め、資格者の行う医業の内容等により資格の剥奪・停止といった規制を行う医師法の趣旨に照らすと、医師としての適性を欠く者に対する厳正な行政処分が遅滞なくなされる必要があります。訴訟の結果待ちという受け身の姿勢では、事件が風化してからの処分となるおそれも多分にあります。また、患者から寄せられた多数の被害申立てが事実上たなざらしという現状もあります。

  人員拡充を含め、迅速かつ適正な処分を可能とするような厚労省・医道審の組織・体制作りが総合的に行われる必要があります。

被処分医師の再教育義務付け

  他方、去る平成17年2月22日、厚労省内の「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会」で、同省が、医療過誤などで行政処分を受けた医師に再教育を義務付ける方針を打ち出した旨報道されました。

  従来、行政処分後の再教育制度はなく、医業停止の処分を受けた医師も停止期間が経過すれば無条件に現場復帰できていましたが、これが改められることになったようです。

  医師法の趣旨・目的に照らすと望ましい方針とも思えます。

原因・背景の究明を忘れずに

  ただ、医療過誤の原因・背景として、個々の医師の資質の問題というより病院の診療体制などが問題とされるべき場合もあります。真に医療過誤の再発防止を図り、国民の健康な生活を確保するためには、過誤の原因・背景をきちんと究明する必要があります。この点を疎かにして個々の医師に責任を押し付けることにならないよう十分注意しなければなりません。