弁護士堀康司(常任理事)(2005年5月センターニュース206号情報センター日誌より)
6ヶ月分の情報を公表
4月15日、日本医療機能評価機構医療事故防止センターは医療事故情報収集等事業第1回報告書を発表しました。この報告書によって、2005年3月の本欄(204号)でご紹介した義務的報告制度(任意参加医療機関を含む)を通じて平成16年10月から平成17年3月までの半年間に集められた医療事故の情報の分析状況が明らかとなりました。
報告もれはないか?
この報告書によれば、533医療機関(平成17年3月31日現在)からこの半年間に丁度533件の事故があったとのことですが、報告義務医療機関(278施設・合計病床数147,986床)からの報告が482件で、全体の9割以上を占めていますので、任意参加医療機関の事故報告体制が整うまでにはまだ時間がかかりそうです。
また、今回の報告義務医療機関による半年間の事故報告数を日本の病床数(厚労省統計によると平成15年10月1日現在で1,820,212床)にあてはめて単純に推計すると、年間で1万件を超える医療事故が生じている可能性が示唆されます。
ただ、2004年5月の本欄(194号)でご紹介したように「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」では別の手法(診療録無作為抽出)による調査が進められていますので、こうした分析結果とも照合しながら、事故報告制度を通じて医療事故がもれなく報告されているかどうかを検証することも必要となりそうです。
不作為型過誤は誰が分析する?
同報告書における事故発生場面等の分類項目や、同報告書が今後の重要テーマとして1)手術等における異物の残存と2)医療機器の使用に関する事故の2点をピックアップしていること等からすると、報告されたのは医原病型(作為型)事故が中心であるように想像されます。こうした医原病型事故について全国的に事例情報を集約して集中的に対策が検討されたことはありませんでしたので、今後の成果には是非期待したいと思います。
ただ、2004年9月の本欄(198号)でも各病院の事故公表制度からは医師不作為型過誤(=医師の適切な判断や指示を欠いたため病状が進行したようなケース)への対応が抜け落ちているのではと述べましたが、今回の報告書からも、各病院において医師不作為型過誤の把握が著しく遅れているのではないかという懸念を感じました。
監視の視点~守備範囲の内、そして外
事故情報収集事業は、制度設計上、医原病型が中心にならざるを得ないのかもしれませんが、そうであれば別の方法(行政処分制度や専門医認定制度等)を通じて医師不作為型過誤の実情を明らかにし、個々の医師の診療水準の向上を図る必要があるはずです。
今後は患者の側からも、1)事故情報収集等事業で守備範囲とされている領域で実際に成果が上がっているか、2)同事業でカバーされていない領域の問題をどのような手法で顕在化させるのか、という2つの視点を意識しながら、事故報告制度が実のある制度となるように監視を進める必要があると思われます。