医事関係訴訟委員会の答申内容は不十分

弁護士園田理(常任理事)(2005年8月センターニュース209号情報センター日誌より)

医事関係訴訟委員会の答申とは

  平成17年6月、医事関係訴訟委員会(以下「委員会」)が最高裁に答申を出しました。

  委員会は、平成13年6月に最高裁内に設置された機関です。医事紛争事件を専門家の協力を得て適正かつ合理的期間内に解決するという目的の下、同事件の係属裁判所等の依頼に基づく最高裁の求めに応じ鑑定人等の選定を行うとともに、同事件の運営に関する一般的事項を調査審議し最高裁に意見陳述する任務を負っており、今回の答申は本来この意見陳述に当たるものです。

委員会に注目して来た

  委員会については、この嘱託日誌でも何度か取り上げ、その動向には注目して来ました。

  また、当センターは医療問題弁護団(東京)などと共同で、平成15年4月、委員会に対する要望を意見書の形で提出しました。その内容は、医事紛争事件を「適正」に解決するためには鑑定人による鑑定の質が確保される必要があり、鑑定の「質」を確保するためには、透明性の高い鑑定環境を確保し、医療界に相互批判を認める非封建的な文化を醸成させる必要がある、そのためには、単に鑑定人を選定するだけでなく、・選定した鑑定人による鑑定書の公表、・鑑定人候補者の推薦依頼をした学会に対し、推薦手続の透明化と鑑定書内容の評価制度の確立を促すこと、・委員会自身による鑑定書内容の評価、をなされたい、というものでした。

答申の内容は

  この度出された答申は、そのほとんどが、鑑定人候補者推薦依頼システムの構築とその円滑な運営を目指して活動したという委員会の活動報告です。医事紛争事件の運営に関する一般的事項については、基本的に審議経過が述べられているだけです。そして当センターなどが上記のとおり要望した点については、委員会の意見として全く反映されていません。

  審議経過に触れた箇所では、委員会が鑑定書を公表したり、その内容を評価したりしたらどうかとの意見が出たと紹介されています。しかし、それも、鑑定をより一層多くの医師に引き受けてもらうためには、鑑定を行うことが医師としての評価につながるようにする必要があり、そのためには鑑定書の公表や内容評価を行うのがいいという趣旨です。結局、個別事件の鑑定内容を委員会が評価するのは危険だとの意見が出たりして、上記意見も委員会意見としてまとまっていません。

一方に偏り不十分

  医事紛争事件でなされる鑑定の中には、誠実性、論理性、科学性を欠く、いわば「質」に問題ある鑑定が少なからず存在し、それが事件の「適正」な解決を阻害しているという現実があります。委員会の答申では、この問題を克服するための意見が何ら述べられませんでした。個々の鑑定内容の評価には抵抗があるとしても、少なくとも鑑定書を公表する方針は打ち出せたのではないか。事件を「合理的期間内に」解決すること、鑑定人の確保が困難で、かつ時間が掛かり過ぎるという、鑑定のいわば「量」の問題を克服することにばかり目を奪われたもので、答申内容は一方に偏り不十分だと言わねばなりません。