シンポ「不審な死をどう裁く」~死因調査モデル事業の課題は?

弁護士堀康司(常任理事)(2006年7月センターニュース220号情報センター日誌より)

診療関連死の調査と届出について議論

  5月27日、名古屋市内にて、医療事故情報センター総会記念シンポジウム「不審な死をどう裁く」が開催されました。甲斐克則氏(早稲田大学大学院法務研究科教授)、田原克志氏(厚生労働省医政局総務課医療安全推進室長)、畑中綾子氏(東京大学COE特任研究員)に参加いただいて、診療関連死の調査や届出制度に関してご発言いただきました。会場では例年以上に医療関係者の参加が目立ちました。

医療事故に特化した届出規定が必要

  シンポでは、まず甲斐氏が、異状死届出義務にまつわる論点(異状死の定義、届出と憲法の自己負罪拒否特権との関係等)について簡潔に論点を整理し、医療事故に特化した届出規定、一定の刑事免責制度、被害者救済・補償制度、原因究明型の医事審判制度等の必要性を指摘しました。

死因調査モデル事業の実情

  田原氏からは、全国6地区で実施中の「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の実情が報告されました。すでに21例(東京12、大阪5、愛知1、兵庫1、茨城2、新潟0)が検討されていること、結果報告に至ったのは1例であること、21例中18例は警察を経た後にモデル事業の対象とされており、警察の協力を得ながらモデル事業が運営されていること、札幌・神奈川・福岡でも事業開始を検討中だが、これら9地域以外への拡大の予定は当面ないことが紹介され、結果の出た1例を含む6例については、事案概要が説明されました。田原氏からは、モデル事業の調査方式は人員・費用が大がかりである、1県1医大という地域への展開可能性が課題であるとの指摘がありましたので、茨城(医学部は筑波大のみ)の経験が今後の試金石となりそうです。

モデル事業の先駆性と問題点

  畑中氏は、英国におけるコロナー制度を解説し、日本の解剖制度(司法・行政・病理等)の複雑さや解剖医の不足を指摘しました。畑中氏は、医療と司法の双方の立場から検討を加えるモデル事業は、世界的に見ても先駆的な試みであると評価した上で、その成功のためにも統一的な解剖制度が必要と提言しました。

貴重な成果を皆の手に

 本欄筆者には、モデル事業の調査結果第1例が出たとの報道に接した際、モデル事業のウェブサイトに全く情報が掲示されていないため、厚労省医療安全推進室に問い合わせて、報道機関発表資料の提供を求めたけれども入手できなかったという経験があります。後日になって、報道関係者から入手しましたが、十分な匿名化が施されており、ウェブサイトに掲示することに問題があるとは考えがたい内容でした。各地のリスクマネージャーにとっても非常に有益な情報ですので、公表されていながら、簡単な方法で入手できないのは非常に残念です。この日の田原氏との質疑からも、モデル事業の運営委員会では、調査成果の社会への還元方法について議論が進んでいない様子がうかがわれました。

  モデル事業は「患者やその家族のみならず、社会に対しても十分な情報提供を図り、医療の透明性を高めること」をも目的としています。その目的に沿った情報提供体制が早急に整備されることを、今後も求め続けていきたいと思います。