弁護士堀康司(常任理事)(2006年8月センターニュース221号情報センター日誌より)
日本医師会が制度化プロジェクトを始動
2006年6月、日本医師会は「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置したことを明らかにしました。
日本医師会の医療に伴い発生する障害補償制度検討委員会は「医療に伴い発生する障害補償制度の創設をめざして」を今年1月に答申し、分娩に関連する脳性麻痺に対する無過失補償制度の先行創設を提案しています。
制度化プロジェクト委では、この答申を踏まえて、補償の対象・補償額・基金・制度運用方法といった具体的な制度の内容を検討し、今年7月末を目途に結論をまとめるとのことです。
日医1月答申を読み解く
上記答申は、医療に伴って発生する障害の補償制度全体の創設に先立ち、分娩に関連する脳性麻痺に関して補償制度を先行実施することを柱としています。答申原文が簡潔であるため、方向性が不明の点もありますが、概要はおおむね以下のとおりです。
*補償対象
・分娩に関連する脳性麻痺児(出産体重2,000g未満は別途審査)
・発生頻度は分娩100万人あたり567人程度と推計
*認定手続
・保護者、医師、助産師らが医師意見書を添付して申請
・調査委員会が検討し報告書作成
・裁定委員会が報告書に基づき給付を決定
・不服、再審査請求制度も設置
*補償内容
・一時金・逸失利益・介護料の3本立て
・出生後5歳児健診までに一時金1,000万円を給付
・5歳時までに症状固定を待ち、障害判定と医師過失の有無を審査
・障害は労災5級程度以上を対象
・逸失利益は交通事故基準でセンサスを基準に計算し、その8割相当額を補償
・介護料は障害1級と2級のみ、日額6,000円を平均余命まで
・介護料は介護支援制度等の整備の程度に従って減額する
※支払方法は一時払いと年金払いの双方を視野に入れて検討される模様
*運用
・補償基金を創設し、保険会社に運用を委託
・財源は公費(社会保険料・税金)、医師負担金、寄付金、援助金等
・上記とは別個独立に医療事故検討委員会を設置し、原因分析、防止対策、注意勧告等を実施
※有過失の場合の医師への求償、故意・重過失の場合の医道審等への通告も視野か?
(先行実施構想中では特段の言及はないが、医療事故全体の無過失補償構想部分では求償や
通告に言及あり)
予算規模
年間約567名と推計される対象児の障害等級の内訳を想定することは容易ではなさそうですが、答申に書かれた算定例からすると、障害1級の男児1人について合計1億円弱となりますので、構想の実現には年間数百億円規模の予算が必要になると思われます。
患者側の声の集約が急務
無過失補償制度については、「医療被害防止・救済システムの実現をめざす会」(仮称)準備室による「医療被害防止・救済センター」構想や、患者の権利法をつくる会による「医療事故被害防止・補償法要綱案」等の様々な提案がなされてきましたが、今回の日医の構想では、分娩に関連する脳性麻痺の後遺障害領域に補償対象を限定することにより、当面の予算規模をも想定した提案となっている点に特徴があります。日本医師会によれば2007年の法案提出を目指しているとのことですので、具体化の動きは今後急速に進みそうです。
部分領域における無過失補償制度が創設されれば、これが医療事故全体に対する無過失補償制度のひな形となる可能性が高いと思われますので、こうした動向に対する患者側の声の集約を急ぐ必要があります。