弁護士園田理(常任理事)(2006年9月センターニュース222号情報センター日誌より)
アンケート実施の趣旨
医療事故事案は、通常の民事事件に比べ、和解で解決する例が少なくありません。平成13、14年頃からは、医事関係訴訟の既済事件終局区分のうち、和解の割合がより一層の増加傾向を示しています(当ニュース本年6月号本欄参照)。
ところが、このような医療事故事案の和解や示談に際し、昨今、医療機関側が謝罪したり再発防止の約束をしたりする事例も増えてきている一方で、医療機関側から和解内容を公表しないようにとの要望が出され、その旨の条項が合意される事例もあるようです。
そこで、弊センターは、医療事故事案での和解や示談において入れられている、賠償金支払条項以外の和解条項の実態・内容を調査すべく、去る6月1日付けで正会員の方々にアンケートを実施いたしました。
なお、できるだけ簡易に回答いただけるよう、アンケート内容は、次の・・につきごく簡潔に質問をさせていただきました。
・代理人として関与した医療事故事案のうち、平成17年1月1日以降に成立した和解や示談について、その条項中に賠償金支払条項以外の条項が入れられたことがあったか否か。あったとすればその条項内容。
・賠償金支払条項以外の条項を入れることについての、最近の傾向、執務方針などの意見(自由記載)。
アンケート結果
8月15日現在、60名の方々からご回答いただきました。うち平成17年以降に成立した和解や示談に賠償金支払条項以外の条項が入れられたことがあったのは39名、なかったのは21名でした。
賠償金支払条項以外の条項が入れられたと回答された方から、謝罪条項、再発防止条項、その他の条項の例が42件分寄せられるとともに、非公表条項その他の条項が17件分寄せられました。
また、賠償金支払条項以外の条項を入れることにつき最近の傾向や執務方針など数多くのご意見もお寄せいただきました。
アンケート結果を踏まえて
回答数が必ずしも多くないため、実情をどこまで把握できたか分かりませんが、アンケート結果から以下のように感じました。
・医療事故事案に熱心に取り組む患者側弁護士の方々には、謝罪条項・再発防止条項を積極的に意義付け、できる限りこのような条項を和解や示談の際に入れてもらえるよう努力されている方が多い。
・どのような文言、形式で、医療機関側に謝罪や再発防止の誓約をしてもらうかについて、各患者側弁護士が事案毎に様々な配慮・工夫を凝らしている。
・「みだりに」「正当な理由なく」「第三者に 公表しない」という抽象的文言による非公表条項は、公表禁止範囲が不明確で、公表に対する萎縮効果をもたらしかねない。非公表により当該事故の教訓が社会に還元されないこととなる。かかる条項を入れるのはできる限り慎重であるべきだ。
・仮に医療機関側に非公表の強い要望があっても、公表に当たり当該医療機関が識別されないよう配慮することで足りないか、他の医療機関における同種事故の再発予防のためにマスコミへの公表も禁止されないよう配慮すべき事案ではないか、少なくとも同種事故事案の解決の参考に供するため、研究会や勉強会などで公表することまで禁止されないよう配慮すべきではないか、などを十分検討する必要がある。