弁護士堀康司(常任理事)(2007年3月センターニュース228号情報センター日誌より)
緊急シンポに多数の来場者
2月12日午後、東京・市ヶ谷において「産科医療における無過失補償制度を考える緊急シンポジウム」が開催されました。陣痛促進剤による被害を考える会(代表・出元明美氏)が主催したこのシンポには、医療事故情報センターと医療問題弁護団(代表・鈴木利廣弁護士)が共催参加しました。準備期間は約3週間という緊急企画でしたが、100人近い参加者が集まりました。多数のメディア関係者やジャーナリスト、医療関係者も来場しており、この問題に対する社会の関心の高さをあらためて感じました。
シンポ第1部では、私、松井菜採弁護士(医療問題弁護団産科部会幹事)、打出喜義医師(金沢大学病院産婦人科)、出元氏の順で、無過失補償制度に関する議論の経過や、日医・自民党の構想の内容とその問題点等について発言し、論点整理を行いました。
休憩をはさんで行われた第2部では、勝村久司氏(陣痛促進剤による被害を考える会・中医協委員)の司会の下で、パネルディスカッションと会場質疑が行われました。
来場した家族からの切実な声
今回のシンポの最大の成果は、第2部の冒頭で、脳性麻痺児を持つ4家族の生の声を、会場発言として紹介できたことでした。
最初に発言したご家族からは、勝訴的な和解には至ったものの、その後も年の半分以上は入院が必要で、介護施設等の選択肢も乏しく困っているという現状説明がありました。
次に発言した女性は、自身の分娩において、通常用いられるはずのない薬剤で陣痛誘発が行われ、仮死状態で生まれた後に児の転送が遅れた等の問題点があったことを述べ、それなりの理由があるからこそ提訴に至っているという実情をわかってほしいと訴えました(この方の夫は現役の医師とのこと)。
3番目に発言した方からは、転送された先での児の診断結果も判明していないような時点で、分娩を担当した医師から、今の医学では判断できない、訴訟では負けたことがない等々と言われた経験が紹介されました。
最後に発言した方は助産師でもあるとのことでしたが、自分の疑問に対して答えてくれなかったために裁判に至ったことや、勝訴的和解に至ったが、気管切開している児を引き受けてくれる施設が乏しいために今なお苦労していることを、淡々と述べられました。
被害者の声を聞くことの大切さ
このような切実な発言の数々から、事実調査や再発防止の重要性、介護環境整備の必要性を感じました。これらを抜きにして、医療事故被害者の納得する無過失補償制度を構築することは不可能です。無過失補償制度を議論するならば、まず何よりも患者・家族の声に十分に耳を傾け、現にどのような診療行為の結果として脳性麻痺が生じているのかを、過去の事例(その情報は損保会社が十二分に集積しているはずです)に即して分析することが必須です。
このような検討がないまま創設される制度に、賛意を示すことはできません。