産科医療補償制度の検討進む~補償対象の議論は難航か?

弁護士堀康司(常任理事)(2007年7月センターニュース232号情報センター日誌より)

補正予算で制度調査がスタート

  国は、平成18年度補正予算において「産科無過失補償制度支援事業」として制度調査費用を予算化しました。これにより、日本医療機能評価機構内に産科医療補償制度運営組織準備室が設置され、運営組織準備委員会(委員長:近藤純五郎弁護士・元厚労省事務次官)が会合を重ねています。

準備委員会と調査専門委員会が作業を開始

  本年2月23日の初回会合では、資料・議事録を公表することや、以後の会合を公開することが確認されました。また、日医の審査への関与と利益相反の問題(過失事案での求償実施と医賠責の関係)や、補償制度と行政処分(特にリピーター再教育)とのリンクのあり方、患者・家族に対する説明責任等についても、今後検討を加えていくこととなりました。第2回会合(4月11日)では、患者家族・産科医・弁護士らからのヒアリングが実施され、第3回会合(5月16日)では、小児神経の専門家が参考人として脳性麻痺に関する基礎知識を解説しました。

  準備委員会には調査専門委員会が設けられており、8月ころまでには、過去に国内3箇所で実施された脳性麻痺児の調査結果に基づいて、基礎調査結果を準備委員会に報告する予定となっており、準備委員会では、この基礎データを踏まえて更に制度設計の議論を進め、平成19年度中にも意見を一本化する見通しとなっています。

再発防止の重要性は共通認識に

  医療事故情報センターでは、昨年12月に公表の意見書において、訴訟回避を主目的として制度設計すべきでないことを指摘しましたが、これまでの議論を見る限り、補償制度による脳性麻痺児の救済と再発防止の重要性については、準備委員の間でも共通認識となっているようです。また、調査専門委員からも、「産科医不足と訴訟の問題をきっかけとして議論がはじまったとしても、基本は脳性麻痺児とその家族の救済である」とする意見が出されていますので、これまでのところは、あるべき制度趣旨に沿った議論が進んでいると思います。

  しかしながら、第1回会合では、制度設計にあたって法改正は予定しないとの方向性も示されています。過去、医賠責保険が再発防止のための役割を果たしてこなかったという歴史を振り返った場合、単に民間保険商品を開発するだけで、実りある再発防止システムを構築できるのかどうか、大きな疑問が残ります。今後は、法的裏付けの整備も視野に入れた議論が望まれます。

体重・週数基準に合理性なし~幅広い対象への補償を

  昨年公表された日医原案では「体重2200g以上、週数34週以上」が補償基準とされていましたが、準備委員会では、この点についての疑義が相次ぎました。その結果、日医原案の基準は財源見通しとの関係で提案されたにすぎず、医学的合理性は認められないことが明確となりました。また、調査専門委員の間からも「同じ状態の子が平等に救われる制度であってほしい」との要望が出ています。

  当初日医・自民党の示した枠組みの理念があいまいだったこともあり、補償対象の検討については、今後相当に難航することが予想されます。

  準備委員会では、この補償制度が、何よりも患者・家族のためのものであることを明確に位置付け直した上で、可能な限り幅広く補償する仕組みの実現に向けた議論を進めるべきです。