弁護士堀康司(常任理事)(2007年9月センターニュース234号情報センター日誌より)
昨年に続いて2度目の年報
本年7月、日本医療機能評価機構の医療事故防止センターは「医療事故情報等収集事業平成18年年報」を公表しました。これは平成17年に続いて2度目の年報となります。ここには医療法で事故報告義務の対象とされた医療機関と、任意参加医療機関双方の数字が出ていますが、以下では、施設数や病床数等に年次変動が少ない報告義務対象医療機関の数字を追ってみたいと思います。
事故数は漸増、死亡事故は8.5件に1件?
平成18年末の報告義務対象医療機関は273施設、病床総数は14万7,836床(平成17年末は272施設、14万7,627床)です。ここから報告された平成18年1年間の事故総数は1,296件、うち死亡事故が152件、障害残存の可能性の高い事故が201件でした。平成17年はそれぞれ1,114件、143件、159件でしたので、いずれの数字も漸増傾向にあると言えます。この数字からは、年間114床あたり1件の医療事故、736床あたり1件の後遺障害事故、972床あたり1件の死亡事故が起きているということになります。日本の病床数は163万1,473床(平成17年10月1日現在)ですので、非常にラフな推計ですが、単純にあてはめると、全国で年間1,600件を超える死亡事故が生じている可能性が示唆されます。また、今回の数字からは、報告された医療事故のうち、8.5件あたりに1件が死亡事故だったということになります。
水面下に潜む暗数~500床以上の40施設が報告ゼロ
さて、以上の数字は実態を適切に反映したものとなっているのでしょうか。
今回の年報では、病床規模別の報告医療機関数が明らかにされていますので、年間報告がゼロ件の施設数を割り出すことが可能です。
表に示したとおり、報告義務対象医療機関のうち、500床規模以上の医療機関は130施設存在しますが、うち21施設は年間報告ゼロとなっています。年間に114床あたり1件の事故が報告されているという全体の事故頻度からすれば、1,000床の病院であれば年間8-9件程度の報告対象事故が発生していることになります。500床を超えるような大規模医療機関において、1年間に報告義務対象となる事故の発生がゼロというのは、いかにも不自然と言わざるを得ません。
法的報告義務履行の徹底を
以上からは、少なくとも一部の医療機関において医療法上の義務である事故報告を懈怠している可能性が濃厚にうたがわれます。仮にそれが特定機能病院であれば、承認取消の要件にも該当します。厚労省は、施設規模に照らして極端に報告の少ない医療機関に対しては、院内事故報告体制の不備の有無を早急に調査し、適正な事故報告の実施を強く指導すべきです。