厚生労働省医政局総務課医療安全推進室 御中
意 見 書
名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
医 療 事 故 情 報 セ ン タ ー
理事長 柴田 義朗
電話 052-951-1731
FAX 052-951-1732
医療事故情報センターは、医療事故の被害回復と再発防止の実現を目的として、医療事故の被害者の側に立って活動している全国の弁護士を正会員とする団体です。1990年12月に設立され、2007年11月1日現在の正会員弁護士数は664名です。
「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案-第二次試案-」に対する当センターの意見は、以下のとおりです。
なお、パブリックコメントの募集から回答期限までの期間が非常に短いため、重要な要点についてのみ意見を述べます。
この意見についての公表を希望します。
■1 「1 はじめに」について
○診療関連死に対する遺族の想いや願い、医療従事者の責務などをはじめ、医療に関わる全ての人の願いについての十分な理解を踏まえて、死因究明、事故再発防止、医療全体の質・安全性の向上の重要性について、適切な認識が示されている点を高く評価する。
○上記の認識に基づいて、死因究明、事故再発防止を通じて、医療の質・安全の向上に資することを目的として、診療関連死の死因究明・再発防止等についての仕組みを構築するべきとした点についても、強く賛同する。
かかる目的の達成にふさわしい組織づくりのために、行政の今後一層の尽力が必要であり、これを高く期待するとともに、医療界、国民も、共に、力と知恵を出しあい、共に、安全・安心で良質な医療の実現に協力する必要性を痛感する。
■2 「2 診療関連死の死因究明を行う組織について」
○上記の目的に叶う組織が果たすべき業務は、第二次試案に示されたとおり、死因究明のみにとどまらず、再発防止のための提言や関係省庁への勧告・建議までを含むべきである。よって、その組織の名称は、「医療事故調査委員会」という、仮称として示されたような、その業務の一面のみをあらわす名称ではなく、「医療安全委員会」というように、この組織の目的を正しく表す名称が望ましい。
以下、本意見書では、創設すべきと考える組織について、医療安全委員会と記述して、記載する。
○医療安全委員会は、厚生労働省内ではなく、内閣府の下に、国家行政組織法3条に基づく独立行政委員会として設置し、多省庁から独立して医療安全に関する勧告・建議を行いうる実質的権限をもつべきである
(理由)
1 死因究明を通じた医療安全の実現は、国民すべての願いである。そうした願いを実現するための組織である医療安全委員会は、特定の行政分野のみを担当する1省庁内ではなく、行政全体を統括・調整する立場にある内閣府に設置することが必要である。これによって、診療関連死の死因究明等を通じて、医療全体の質、安全の向上を図ることが、国家的事業であることの位置付けを明確化することになる。
2 医療安全を実現するためには、厚生労働省のみならず、多省庁が協同して取り組む必要がある。例を挙げるなら、医師・看護師等の増員や配置に関しては文部科学省、救急搬送システムや自治体病院に関連する問題については総務省・消防庁、医療に関わる機材の規格等については経済産業省、医療安全を実現するための費用に関しては財務省が、それぞれ関わる問題である。
こうした多省庁横断的で国家的課題である医療安全の実現に必要な実効的な勧告や建議を行うためには、医療安全委員会は、厚生労働省内に設置するのではなく、省庁間の調整をはかりうるように、内閣府の下に置いた上で、各省庁から独立した立場で医療安全に関する施策を検討できるよう、国家行政組織法3条に基づく独立行政委員会として設置し、医療安全の実現のための勧告・建議を行いうる実質的権限を与える必要がある。
なお、多省庁横断的な問題を取り扱うために、内閣府の下に置かれた独立行政委員会の例としては、厚生行政と農林水産行政をまたぐ分野を所管する食品安全委員会がある。食品の安全同様、医療の安全が、全国民に関わる非常に重要な問題であることからすれば、医療安全委員会を内閣府の下に置くべきは当然である。
3 厚生労働省は、自ら医療機関を開設しており(各ナショナルセンター)また独立法人化したとはいっても、旧国立病院・国立療養所とは、非常に強い関連性を保持している。こうした厚生労働省関連の医療機関においても、診療関連死は起きうるのであるから、そうした場合の死因究明のための調査について、独立性・透明性を確保するためにも、医療安全委員会は、厚生労働省内に設置されるべきではない。
3 「診療関連死の届出制度のあり方について」に対する意見
○診療関連死については、医療安全委員会に対して届け出ることを、医療機関に対して法的に義務づけるべきである。 |
■4 「5 院内事故調査委員会」について
○診療関連死の死因究明等にあたって、院内事故調査委員会における調査・評価が極めて重要であるとする認識に対し、強く賛同する。ただ、第2次試案では、医療安全委員会における、院内事故調査委員会の位置づけやその在り方が、明確でないから、今後、この点の検討が極めて重要な必須の課題である。 ○医療安全委員会による診療関連死の調査においては、院内事故調査委員会による調査が必須であることを、法的に明確化すべきである。 ○院内事故調査委員会の組織、調査の在り方については、法律あるいはガイドライン等で、その主要部分を明確化することによって、院内事故調査の水準を一定以上に担保することが必須である。とりわけ、院内事故調査委員会の組織については、外部委員として、当該事故事例にふさわしい専門性を有する専門家のほか、患者の立場から、日頃から診療記録などの分析・調査を行うなどして医療安全に造詣の深い法律家や事故防止や品質管理、安全管理に関する有識者が選任されることを必須とすべきである。 ○中小規模医療機関において、院内事故調査委員会を設置することが困難であるという問題については、学会等が、院外事故調査委員会を設置して、中小規模医療機関から、院内事故調査に代替する調査の実施を受託できるよう、努力・協力をすべきであり、国はそうした取り組みを学会等に促していく必要がある。 (理由) 1 各医療機関が、医療安全の重要さを認識し、診療関連死の死因究明等について自律的に取り組み、死因究明や再発防止策の立案を行いうる実力を備えることによって、初めて真の医療安全が実現されるのであって、調査・検討を他人任せにし、他人から指示されたお仕着せの対策に従うだけであっては、医療界に医療安全のための土壌が育つことは到底期待しえない。 この数年で育ちつつある、各医療機関による院内事故調査による自発的な医療安全実現に向けた動きの芽を摘まないためにも、医療安全委員会による調査の過程の中に、院内事故調査の実施が不可欠であることを、法的に明確化すべきである。 なお、診療関連死の件数が相当数にのぼることが予想されることに照らしても、死因究明のための調査組織が自ら全件調査を実施することには、相当の困難が予想されるため、実効的な調査のためにも、院内事故調査委員会の関与が必要となると考えられる。 2 以上のとおり、院内事故調査委員会による調査は、診療関連死に関する死因究明等の過程において、非常に重要な位置を占めるものである。しかしながら、現状では、院内事故調査委員会の組織や、そこで行われる調査の質については、大きなばらつきがあるのが現状である。 そこで、診療関連死の死因究明等を行うにあたっては、院内事故調査委員会の組織やその調査の在り方について、主要部分は、法律あるいはガイドライン等で明確化することによって、いずれの医療機関においても、一定以上の質を保った院内事故調査を実施できるよう促す必要がある。 なお、遺族の願いを引くまでもなく、院内事故調査委員会は、独立性・透明性を持って運営されることが極めて重要であるから、院内事故調査委員会には外部委員 の参画が必要不可欠である。そして、この外部委員としては、当該事故事例にふさわしい専門性を有する専門家のほか、医療安全に造詣の深い法律家が必要であるが、これには、事故調査の公正性を担保するとともに、患者の視点を失わないで調査を遂げるために、日頃患者の立場にたって診療記録などの分析・調査をおこなっている弁護士が相当である。また、医療以外の分野で、事故防止や品質管理、安全管理に関与するなどして知見を有する有識者の参画も必要条件として求めるべきである。 3 一定規模以下の医療機関においては、院内事故調査委員会を設置することが困難であることが予想されるため、そうした医療機関においては、学会等が設置する院外事故調査委員会に調査を委託することによって、院内事故調査委員会による調査を代替するべきである。 そこで、国は、学会等に院外事故調査委員会を設置して医療安全の実現に対する協力を要請していくべきであり、学会等にもこうした事業に積極関与することが求められる。なお、学会以外に、地区医師会などによって、かかる事故調査委員会の創設が可能かという点についても検討がすすめられるべきであろう。 |
■5 医療安全委員会のあるべき姿(全体像)について
○当センターは、以上を踏まえ、2007年10月26日に開催された診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会において、同検討会の加藤良夫委員が示した私案(別紙添付)が、死因究明等に関する組織(医療安全委員会)の在り方として適切であると考える。 以 上 |