弁護士堀康司(常任理事)(2008年2月センターニュース239号情報センター日誌より)
自民党が政府に提言
昨年12月21日、自由民主党社会保障制度調査会の医療紛争処理のあり方検討会は、「診療行為に係る死因究明制度等について」という見解を発表しました。これは、診療行為に関連する死亡の死因究明制度について、昨年10月に公表された厚労省第二次試案と、これに対するパブリックコメントの結果を踏まえて、政府に対する留意事項を示したものです。
自民案の概要
自民案は、まず、医療安全確保が日本の医療政策上の重要課題であり、とりわけ死亡事故の原因の究明と再発防止は「国民の切なる願い」であるとした上で、国の組織として医療安全調査会(仮称)を創設することを提案しています。
この調査会には、中央委員会と地方ブロック単位の委員会及び調査チームが設置され、医療専門家を中心に、法律関係者、患者遺族の立場を代表する者がメンバーとなることが予定されています(ただし個別事例の関係者は含まない)。
そして、調査チームが解剖、関係者聴取、臨床評価等を行って報告書原案を作成し、これを地方委員会が報告書として決定し、遺族に対する説明が行われます。中央委員会は、基本的方針を定めるとともに、全国の医療機関に対して再発防止策を提言し、関係大臣への勧告・建議を行う役割を担うとされています。
また、自民案は、院内事故調査委員会の体制整備の具体的方策や、同調査会の組織定員や予算の確保も政府に要請しています。
自民案では、厚労省等からの独立性の確保についての指摘がありませんので、内閣府に独立行政委員会として設置するべきであることを明確化する必要があります。それ以外の組織のあり方や運営の流れについては、医療事故情報センターの見解におおむね合致する内容であり、前向きに評価することができると思います。
届出範囲の規定がカギ
自民案では、死亡事故発生時の委員会への届出を制度化するとともに、遺族からの調査依頼にも対応すべきであるとの方針が提言されており、届出が必要な事故の基準を明確化することが要請されています。
昨年末に開催された厚労省の検討会でも、届出範囲の検討がなされていますが、ここでは、次のような案が示されています(下線は筆者)。
以下の1)又は2)のいずれかに該当すると、医療機関において判断した場合に、委員会への届出を要する。
1)誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、患者が死亡した事案
2)誤った医療を行ったことは明らかではないが、行った医療に起因して、患者が死亡した事案(行
った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)
我が国では、すでに医療事故情報収集等事業が実施されており、一定の医療機関には事故の届出が法的に義務づけられています(医療法施行規則9条の23)。ここでは、上記1)2)とほぼ同趣旨の定義に該当する医療事故が「発生した場合には」届出を要するとされていますので、診療関連死の届出範囲について、厚労省提示の上記の案のような表現を用いた場合には、医療事故情報収集等事業における届出範囲との異同や整合性について疑義が生じる可能性があります。
また、1)と2)のいずれについても届出を要するのであれば、「誤った医療を行ったことが明らか」かどうかにあえて触れる必要はなく、端的に
行った医療に起因して患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)
と定義すれば足りるはずです。
幅広く事案を集積して再発防止を実現するためにも、適切な形で届出範囲が規定されることが望まれます。