診療関連死因調査~届出範囲と調査チーム構成が焦点か

弁護士堀康司(常任理事)(2008年6月センターニュース243号情報センター日誌より)

第三次試案に対する意見を提出

  本年5月8日、当センターは、厚労省に対し、「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対するパブリックコメントを提出しました。

医療界からの反発に対して

  第三次試案は、第二次試案に対する医療界の反発に大きく配慮した内容となっています。そこで、今回のパブコメでは「『医療安全調査委員会』は、単に医療事故に関する刑事責任や行政責任を免責するための道具となってはならず、その創設にあたっては、多くの苦しみや悲しみを背負ってきた被害者・遺族、そして患者となる市民が納得し、信頼を寄せることができるよう、公正性・透明性・実効性が確保された制度として設計されることが不可欠である」ことを指摘しました。

  また、第三次試案では、診療行為に危険性や不確実性が伴うことが強調されていますので、今回のパブコメでは、医療界にピアレビューが根付いていないことを指摘しつつ、「一般論として『医療に不確実性が伴う』ことは事実であるが、そのことによって、1つ1つの事故について丁寧に原因を究明していく作業の重要性には、何ら変化を生じるものではない。医療事故の死亡原因を究明する制度は、こうした視点に基づいて設計されることが不可欠である」と述べました。

届出範囲の狭さに医療界からも異論

  2月号の本稿でも指摘しましたが、届出範囲については、第三次試案でも不十分な定義のままでした。そこで今回のパブコメでは「第三次試案では、届出範囲の定義に恣意的な解釈の余地が残るため、制度の発足にあたり、この点の修正は不可欠である。また、第三次試案が想定する医療事故は、死亡事故の中の一部の類型(医原病型事故・作為型事故)に偏重しており、画像上の異常陰影の見落とし・検査の懈怠・診断の遅延等といった医師らの不作為を原因とする死亡事故については、届出がなされない可能性がある」ことを指摘しました。

  第三次試案の定める届出範囲については、財団法人生存科学研究所(創設者:故武見太郎元日本医師会会長)の医療政策研究会が4月23日に発表した意見においても、「届出が医師の責任追及につながるとする短絡的な反対論に大きく影響を受け、委員会の守備範囲が実質的に狭められたことは、医療の安全の向上という設立目的そのものを実質的に損なうものとして問題視せざるを得ません」「判断に迷うグレー部分をできるだけ幅広く届け出て初めて、医療安全を目指す委員会は警察に代わる診療関連死の届出先として国民の認知を受けるであろう」との、厳しい批判が加えられています。

  制度発足にあたっては、幅広く届出がなされる制度設計を求め続けていく必要があります。

調査チームには医療界以外のメンバーを

  第三次試案では、事故の調査チームの構成について、診療関連死因調査モデル事業における構成を参考とし、医療関係者以外に法律家等を加える方針を打ち出しています。今回の当センターパブコメでも、調査チームには、患者側代理人業務に精通する弁護士の参加が不可欠であることを指摘しました。

  一部の学会からは、調査チームを医療関係者のみで構成すべきという意見が出ているようです。これは、医療関係者以外の専門家をメンバーに加えて、調査結果の透明性・公正性・中立性を確保してきた、モデル事業の試みに逆行する見解と言えます。

  調査チームの構成が不透明なものとならないよう、今後の制度具体化作業を見守りたいと思います。