法案大綱案、公表される~医療死亡事故の原因究明・再発防止制度

弁護士園田理(常任理事)(2008年7月センターニュース244号情報センター日誌より)

法案の大綱案、公表される

  厚労省は、去る6月13日、医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案を公表し、意見公募(パブコメ)をしています。

  この大綱案は、厚労省が、本年4月に公表した「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」(第三次試案)の内容を踏まえ法律案の概要をまとめたものです。

届出義務の範囲は変わらず

  当センターは、第三次試案についてのパブコメで、医療死亡事故の原因究明・再発防止制度が公正、透明かつ実効的になされるためには事故の届出が適切になされることが必要であり、届出義務の範囲を「…に該当すると、医療機関において判断した場合」とする定義では、医療機関において恣意的な解釈のなされる余地が残ることから、「医療機関において判断した場合」との文言を削除するよう修正を求めていました。

  しかし、残念ながら、大綱案においても、上記文言と同趣旨の「医療事故死等に該当すると認めたとき」との文言が残されています。

異状死届出義務との関係は?

  医師は、死体を検案して異状があると認めたとき、24時間以内の所轄警察署への届出義務が課され(医師法21条)、この義務違反には刑事罰(50万円以下の罰金)が科されることになっています(同法33条の2-1)。

  第三次試案では、この異状死届出義務は、医療機関が新制度に基づき医療死亡事故の対外的な届出を行った場合に免除されるとされていましたが、大綱案では、この点若干変更されています。すなわち、異状死体を検案した医師が勤務医である場合は、医療機関の管理者にその旨を報告しさえすれば異状死届出義務を免れ、その後、報告を受けた医療機関の管理者が医療死亡事故と認めず対外的に事故の届出をしなくとも、死体検案をした医師の異状死届出義務が免れるとされているのです。

  これは、異状死届出義務は死体検案を行った医師個人の義務で、24時間以内という時間制限があるため、当該医師が医療機関の管理者にしかるべき報告をした以上、その時点で異状死届出義務を免れることにしておかないと、その後の管理者による届出の有無で異状死届出義務違反に問われるか否かが左右されかねない、との考えによるものかもしれません。

  ただ、本当に当該勤務医が医療機関の管理者に報告したか否かは、医療機関の内部での出来事であるため、どうしても不透明感が残ります。医療機関の管理者には、勤務医から報告を受けた場合、勤務医との協議の経過や医療事故死等と認める認めないの判断をした理由を記載した記録を作成・保存する義務が課されるようですが、前述のとおり医療機関の届出義務の範囲につき恣意的な解釈の余地が残る中で、その届出義務に違反しても行政処分の対象にしかされないという大綱案の内容では、新制度の下、これまでの異状死届出義務を大幅に緩め、事故の届出が適切になされないことになってしまうのではないかとの強い懸念があります。

患者・遺族の視点から多くの意見を

  法律制定へ向けいよいよ大詰めです。

  医療事故の原因究明・再発防止により医療安全を確保するという新制度の目的・理念に適ったあるべき制度となるよう、当センターも大綱案の内容をさらに検討し、厚労省に意見を提出していく予定です。

  まだ第三次試案についても意見公募中です。患者・遺族の視点からの意見を是非多く厚労省に届けましょう。