弁護士園田理(常任理事)(2008年11月センターニュース248号情報センター日誌より)
産科医療における無過失補償制度、いよいよ始動
本年7月下旬より、(財)日本医療機能評価機構内の産科医療補償制度運営部において、分娩機関からの補償制度への加入申請受付が始まっていましたが、10月1日より妊産婦情報の登録手続が開始されました。
分娩機関が補償制度に加入しても、評価機構に自らが妊産婦管理を行っている妊産婦の情報を登録しなければ、出生した児に重度脳性麻痺が発生しても補償対象外とされ、損害保険会社から保険金が支払われません。この意味で、妊産婦情報の登録は補償制度上重要な手続です。産科医療における無過失補償制度がいよいよ動き始めました。
すでに分娩機関のほとんどが加入
このような妊産婦情報の登録手続開始と同時に、産科医療補償制度のホームページが立ち上げられています(http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/)。分娩機関は妊産婦情報の登録をこのホームページ内の専用Webシステムにて行うことになっています。
上記ホームページでは補償制度に加入したすべての分娩機関名が公表され、誰でも検索できるようになっています。
分娩機関の全国的な加入状況や都道府県別の加入状況のデータもホームページに掲載されています。10月15日現在、全国3,259の分娩機関のうち、92.9%に当たる3,029の分娩機関が補償制度に加入したとのことです。評価機構では平成20年度中の分娩機関加入率を65%程度と見込んでいたようでしたが、それをはるかに上回る高率で制度加入が実現しているようです。
補償は、来年1月1日以降出生の児が対象
本年8月20日までに加入申請がなされた分娩機関では、来年1月1日以降に出生した児が補償対象となります。
補償対象の認定申請は、原則として児の満1歳の誕生日から満5歳の誕生日までの間になされることになっています。例外的に児が重度脳性麻痺との診断を受けた場合、児が生後6ヶ月に達した日以降に認定申請ができるとされています。
したがって、認定申請が実際になされるのは早くとも来年の7月1日以降ということになります。
果たして原因分析のあり方は?
産科医療補償制度運営部の中に運営委員会が設けられ、本年7月14日に第1回会合が持たれました。上記ホームページ上に会議録や配付資料が公表されています(このように運営委員会の会議録や配付資料のホームページ上での公表は、歓迎すべきです)。
上記会合では、(社)日本産婦人科医会のワーキンググループ作成の、原因分析の実務運用に関する報告書が資料として配付されています。
この報告書では、プロスペクティブに診療当時行うべきであった適切な分娩管理等は何かという観点で分析すべしとの主張が展開されています。原因分析報告書の記載例も添付されていますが、プロスペクティブに見て「現在一般に行われて適切な医療がなされたにもかかわらず、児の脳性麻痺発症を回避することができなかった事例と判断される」ため、今後の産科医療向上のために検討すべき事項も「特になし」とされてしまっています。プロスペクティブにヒューマン・エラーの有無や医療が適切であったか否かという点ばかりに焦点を当て、そのために掘り下げた検討を回避しようとする姿勢・傾向が見られます。
事故原因分析は、分娩にかかる医療事故により脳性麻痺が発生する事態の再発をできる限り防止するためになされるものです。レトロスペクティブに根本原因にさかのぼって分析がなされる必要があります。
今後原因分析委員会において実際に原因分析がどのようになされていくのか。原因分析の体制とともにそのあり方にも注目していく必要があります。