弁護士園田理(常任理事)(2009年3月センターニュース252号情報センター日誌より)
院内事故調査委員会の運営指針に関する厚生労働科学研究
平成20年4月から、厚生労働科学研究補助金による研究として、「院内事故調査委員会の運営指針の開発に関する研究」が実施されています(主任研究者は、名古屋大学医学部附属病院医療の質・安全管理部准教授相馬孝博氏)。
去る平成21年1月24日、同研究の中間成果報告会が東京都内で開催されました。そこで、研究班としてまとめたものではないとしながら、院内医療事故調査委員会運営指針案第1版(以下「第1試案」)が示されました。
第1試案の概要
・医療における予期しない死亡や重篤な後遺障害の事例を、原則として、院内事故調査委員会を設置する対象事例とし、通常は通常型委員会を設け、「特に外部視点により医療事故を分析する必要がある場合」に限り特別型委員会を設ける。
・通常型委員会では、必要な専門家の人員が医療機関内に充分に存在しない場合に限り、医療専門家の外部委員の派遣を求め任命する(医療機関内に専門家人員が足りていれば外部委員を任命しない)。
・特別型委員会が設置される場合は、委員長を含んで3~6名の医療専門家たる外部委員と、1~2名の内部委員とで構成するものとし、医療専門家たる外部委員の他に、医療機関の管理者が指名した法曹と地域住民代表を外部委員に加えることができるとする。
事例数の地域格差
本研究について、厚生労働省から求められている重要な課題は、「中立性、公平性、透明性の確保の方策や外部の調査組織との連携の在り方についての提言を含める」という点にあります。第1試案が、かかる方策を示していると理解できるでしょうか。
第1試案では、通常型委員会は、原則として内部委員のみで構成されるとされています。この点は、現に一部の医療機関内で実施されているM&M(病因死因)検討会やCPC(臨床病理検討会)の在り方とほとんど変わるところがなく、中立性や公平性、透明性がいかなる方策をもって確保されているのか、疑問があります。
また、第1試案で特別型委員会を設けるとされているのは、医療安全管理者らが、「特に外部視点により医療事故を分析する必要がある場合」と判断した場合です。この基準が、具体的にどのような場合なのか不明確であり、医療機関だけの判断で、特別型委員会は設置されない傾向にならないかと危惧されます。さらに特別型委員会での外部委員にも、非専門家を加えることができるに過ぎず、非専門家の位置づけについて、疑問を感じます。
なお、第1試案では、「予見可能性、予見義務、回避可能性、回避義務等の法的評価を行う場合には必ず、裁判官又は検察官経験者である法曹を外部委員として加える」としています。第1試案でも、事故調査委員会の目的は、原因究明と医療の質・安全の向上のための改善提案であるとして、「個人の責任を追及する場としない」とされています(この点は、異論のないことです)が、他方で、同時に、上記のような記述があることは、明らかに自己撞着に陥っています。委員会の設置目的について、研究班内での理解がすすんでいるのかという心配すら抱かされます。
今後の研究推移にも要注目
本研究は平成20年4月から2年の計画で進められ、約1年後に最終的な報告書が作成・提出される見込みとのことです。上記のように厚生労働省が示した課題に対して、実証的研究を積み重ねられ、慎重な検討のうえで、しかるべき提言を示していただきたいと思います。わたしたちも今後の研究動向に注目していく必要があります。