医療過誤事件の医療側代理人就任に関する総会申し合わせ事項(平成21年5月30日改定)

  医療事故情報センターは、医療における人権確立、医療制度の改善、診療レベルの向上、医療事故の再発の防止、医療被害者の救済等のため、医療事故に関する情報を集め、とりわけ医療過誤裁判を患者側で担当する弁護士のための便宜を図り、弁護士相互の連絡を密にして、各地の協力医を含むヒューマン・ネットワークづくりを通して、医療過誤裁判の困難な壁を克服することを目的とする団体である(規約第3条)。

 現在もなお、患者側は、医療側と比較して、専門的知見へのアクセスをはじめとする様々な局面で、より困難な状態に置かれている。また、当センターが医師から協力を仰ぐにあたっては、当センターへの協力の事実を対外的に秘匿することが条件となることも少なくない。

 かかる状況の下で、規約に定められた目的の達成に向けて当センターを適切かつ円滑に運営していくためには、正会員が医療過誤訴訟の医療側代理人となることについて、一定の制約を設けざるを得ない。

 そこで、当センターは、規約第6条(正会員の入会)、同第10条(正会員の除名)及び同第20条(役員の選出)の運用・解釈に関する総会申し合わせ事項を、規約に準ずるものとして、以下のとおり定める。

第1条(定義)

1 本申し合わせ事項における「医療過誤事件」とは、

    ① 患者本人、その家族等の関係者と

    ② 医療機関開設者、医療従事者との間で

    ③ 診療上の民事責任が問題となる事件

  を指し、患者本人またはその家族等の関係者の主張が正当かどうかは問わないものとする。

   ただし、本条第4項に定める「介護事件」は「医療過誤事件」に含まない。

 

2 本申し合わせ事項における「医療側」とは、

    ① 医療過誤事件において、

    ② 民事上の責任を問われる医療機関開設者、医療従事者

 を指す。

 

3 本申し合わせ事項における「医療従事者」とは、

  医師・歯科医師・薬剤師・看護師等医療従事者のほかあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師等医業類似行為従事者

 を指す。

 

4 本申し合わせ事項における「介護事件」とは、

    ① 被介護者本人、その家族等の関係者と

    ② 介護施設開設者、医療従事者、介護福祉士または社会福祉士との間で

    ③ 介護施設利用契約に伴う診療上の民事責任が問題となる事件

 を指し、被介護者本人またはその家族等の関係者の主張が正当かどうかは問わないものとする。

 

5 本申し合わせ事項における「介護側」とは、

    ① 介護事件において、

    ② 民事上の責任を問われる介護施設開設者、医療従事者、介護福祉士及び社会福祉士

 を指す。

 

6 本申し合わせ事項における「特定継続的契約関係」とは、  

  損害保険会社または国または独立行政法人または地方公共団体または医療従事者の構成する職能団体等との顧問契約その他の継続的契約関係 

  を指す。

第2条(正会員について)

1  正会員は、医療過誤事件の訴訟において、医療側の代理人となってはならない。

 

2  正会員は、特定継続的契約関係を契機として、医療過誤事件の調停、あっせん仲裁、示談交渉等において、医療側の代理人となってはならない。

 

3  前2項について、正会員が、特別の事情があって受任するときには、事前に常任理事会の許可を得るものとする。

 

4  正会員が前項の許可をとらずに、1項または2項に反したときには、理事会は当該正会員に対して、退会勧告または除名することができる。

 

5  正会員は、介護事件の訴訟に関して、介護側の代理人となる場合には、常任理事会に対して、その事実を報告する。

 

6  常任理事会は、前項の報告の有無にかかわらず、必要と認める場合には、当該正会員から事情を聴取して、理事会に報告する。

 

7  理事会は、常任理事会からの前項の報告を踏まえて、当センターの活動に支障を生じるおそれがあると認めた場合には、当該正会員に対して、退会勧告または除名することができる。

第3条(役員について)

1  役員は、医療過誤事件の調停・あっせん仲裁・示談交渉等において、医療側の代理人となってはならない。

 

2  前項について、役員が、特別の事情があって受任するときには、常任理事会の許可を得るものとする。

 

3  役員が、前項の許可をとらずに、1項に反したときには、理事会は当該役員に対して、離職勧告または総会に対する解任要請をすることができる。

第4条(常任理事会の許可の運用について)

  第2条3項および第3条2項に基づき、常任理事会が正会員または役員が医療側の代理人となることを許可する場合には、本申し合わせ事項の趣旨に則り、「特別の事情」の存否について、厳格に解釈・認定を行うものとする。

第5条(所属法律事務所の他の弁護士による医療過誤事件の受任について)

1  正会員または役員の所属する法律事務所の他の弁護士が、医療過誤事件の訴訟において医療側代理人に就任している(しようとする)場合または特定継続的契約関係を契機として、医療過誤事件の調停・あっせん仲裁・示談交渉等において医療側の代理人に就任している(しようとする)場合には、正会員または役員は、常任理事会に対し、その事実を報告する。

 

2  常任理事会は、前項の報告の有無にかかわらず、必要と認める場合には、当該正会員または役員から事情を聴取して、理事会に報告する。

 

3  理事会は、常任理事会からの前項の報告を踏まえて、当センターの活動に支障を生じるおそれがあると認めた場合には、当該正会員に対しては、退会勧告または除名をすることができ、当該役員に対しては、離職勧告または総会に対する解任要請をすることができる。

第6条(入会の承認について)

1  正会員として入会を希望する者が、医療過誤事件の訴訟において、医療側の代理人に就任している場合(入会後において就任する意欲または可能性がある場合も含む)または特定継続的契約関係を契機として、医療過誤事件の調停、あっせん仲裁、示談交渉等において、医療側の代理人に就任している場合(入会後において就任する意欲または可能性がある場合も含む)は、理事会は、その者の入会を承認しない。

 

2  正会員として入会を希望する者の所属する法律事務所の他の弁護士が、医療過誤事件の訴訟において医療側代理人に就任している場合、または特定継続的契約関係を契機として、医療過誤事件の調停、あっせん仲裁、示談交渉等において医療側の代理人に就任している場合には、常任理事会が事情を聴取して理事会に報告し、理事会は、当センターの活動に支障を生ずるおそれがあると認めた場合には、入会を承認しないことができる。

 

3  正会員として入会を希望する者が、介護事件の訴訟に関して、介護側の代理人に就任している場合または特定継続的契約関係を契機として、介護事件の調停、あっせん仲裁、示談交渉等において、介護側の代理人に就任している場合は、常任理事会が事情を聴取して理事会に報告し、理事会は、当センターの活動に支障を生ずるおそれがあると認めた場合には、入会を承認しないことができる。

 

4  前3項に定めるほか、正会員として入会を希望する者に関して、当センターの活動に支障を生ずるおそれがあると認めた場合には、理事会は、その者の入会を承認しないことができる。

附則

1  本申し合わせ事項は平成22年2月1日から適用を開始する。

 

2  正会員は、前項の適用開始時期までに、第2条5項及び第5条1項の報告を行う。

 

以 上

申し合わせ事項に関する解釈指針

第1条4項「介護事件」について

  介護施設における事故としては、転倒、誤嚥、ベッドからの転落、介助中の事故等があり得るが、これらの事故自体は、「診療上の」ものではないので、「介護事件」にはあたらない。これらの介護施設における事故に対する医学上の処置に関する事件を「介護事件」とする。したがって、たとえば、食事の監視体制が不十分で、誤嚥により窒息死しているのが発見された場合は「介護事件」にあたらないのに対して、誤嚥発見後の異物除去措置等が問題となる場合は「介護事件」にあたる。

第1条6項

 「特定継続的契約関係」の対象となる「損害保険会社または国または独立行政法人または地方公共団体または医療従事者の構成する職能団体等」には医師や病院との顧問契約は含まれない。