診療関連死の届出範囲に客観性を 

弁護士堀康司(常任理事)(2009年8月センターニュース257号情報センター日誌より)

木村班が中間報告書を公表

 本年3月、診療行為関連死調査人材育成班(研究代表者・木村哲東京逓信病院病院長)は、平成20年度の総括研究報告書を作成しました。同班では、平成17年度より日本内科学会が実施主体となって行われている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を踏まえて、診療関連死の調査に必要となる各種マニュアル類の整備と、それらを適正に運用できる人材の育成や教育の手法確立をテーマとして、平成20年度から2年の予定で検討を実施しています。

  同班には6つのグループが設置され、1)届け出等判断の標準化、2)事例受付対応マニュアル、3)解剖調査マニュアル、4)事例評価法・報告書作成マニュアル、5)調整看護師業務マニュアル、6)遺族等の追跡調査について、1年間検討が進められてきました。

  今回の報告書は、中間とりまとめとなるものであり、本年6月21日には、東京において、同報告書を踏まえた中間報告会が公開講座として開催されました。

手術で死亡しても届出不要?

  同報告書では、第1グループによって、届出範囲のフローチャート案が提案されています。そこでは「いわゆる合併症として、医学的・合理的に説明できるかどうか」という項目を設けた上で、合併症として説明ができる場合は届出不要とされています。そして、合併症の具体例が9つ例示されていますが、その中には、手術手技による直接死亡例(腸骨動脈閉塞に対する血管カテーテルによる拡張中の動脈穿孔、心筋梗塞に対するステント留置中の冠動脈穿孔、肺癌摘出時の腫瘍癒着部剥離部位からの大量出血等)も含まれています。

  診療関連死の調査の目的は、診療経過の透明性を確保するとともに、同種の不幸な結果を減らすために原因を真摯に究明するというところにあるはずです。術中の血管損傷事例では、出血源となった血管の部位や、破綻部の性状等を調べることによって、出血に至ったメカニズムを解析し、そこから得られた情報を共有することで、同様の出血を回避するために有用な機器の開発や、より安全な手技手順の普及へと繋げていくことが望まれますが、例示された症例はすべて届出対象外となります。遺族の側から見ても、手術で直接死亡したにも関わらず、大事な家族の体に何が起きたのかを客観的に確認する機会を失いかねないという危惧が残ります。

客観基準の設定が必須

  過去、「不幸な合併症でした」との説明に疑問に感じた遺族が調査を行った結果、病院側の注意義務違反が認められるに至ったケースは少なくありません。「合併症として説明が可能かどうか」という基準では、患者の側から見て客観性が確保されているとは言い難く、病院側の裁量的判断の余地が大きすぎるように思われます。少なくとも、手術手技による直接損傷によって術後まもなく患者が死亡したようなケースについては、合併症として説明が可能であったとしても、届出範囲内とする必要があるはずです。

  三重大学医学部附属病院では、一定の客観基準に該当する事例(術後30日以内の死亡事例、侵襲を伴う処置の3日以内の死亡事例、入院後24時間以内の死亡事例、退院後14日以内の死亡事例等)については、院内での精査の対象としています。

  こうした貴重な実践を参考としながら、「合併症」として説明が付くケースであっても、最低限、一定の客観的基準に該当する事例(例:予定手術後の意識回復なき死亡事例、術後○日以内の死亡事例等)については届出対象として精査する仕組みが望まれます。仮に対象外とするのであれば、一定の客観基準に該当する事例については、別途、その病院の責任において解剖を実施し、独自に精査して患者に結果を報告することが求められます。

  同班には、今年度から、院内事故調査のあり方を検討するグループが新たに設置され、筆者もそのメンバーに加わりましたので、客観的な届出範囲のあり方や、院内事故調査と届出の役割分担等について、引き続き考えていきたいと思います。