弁護士園田理(常任理事)(2010年5月センターニュース266号情報センター日誌より)
モデル事業、実施主体を代えて継続
診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(「モデル事業」)が、平成17年9月より行われてきました。実施主体はこれまで日本内科学会でしたが、昨年度末で一旦終了し、本年度から実施主体を一般社団法人日本医療安全調査機構に代えて、引き続き厚労省補助事業として継続されることになりました。
5年弱にわたり日本内科学会で実施されてきたモデル事業の総括と今後に向けての提言内容が、本年3月24日に開催された第24回運営委員会で資料として配布され、委員や地域代表の意見も掲載されています。以下、概要をご紹介します(詳細はモデル事業のホームページを参照ください)。
少ない受付件数
モデル事業の受付件数は、5年弱の間に105件に止まりました。当初、年間200件程度が想定されていたようですが、予想を大幅に下回りました。
その要因として、解剖への遺族の同意が得られない、医師法21条に基づく届出事例がただちに対象とならない、モデル事業について周知が不十分、24時間受付体制でない、といったことが挙げられています。
今後に向けては、医師法21条に基づく届出事例についてもモデル事業で受け付けうるよう厚労省は警察庁・法務省と調整すべし、一般国民や医師の解剖への理解を深める取組みを行う、解剖への同意が得られやすい解剖環境の整備を行う、解剖への同意が得られない事例の調査分析についても前向きに検討する、患者側から調査依頼があった場合にモデル事業側が医療機関を説得する、等が提言されています。
地域間の差、不統一
モデル事業の実施地域毎に、事例受付の基準や調査手順等に差異があったと指摘されています。実際、人口100万人当たりの月間受付件数が最も少なかった愛知と最も多かった札幌とで8倍もの格差がありました。
臨床評価のレベル、視点も、必ずしも全国的に統一されていなかったとの指摘もあります。
今後は、調査手順等の全国的な標準化や簡素化、事例評価手法の標準化が課題・テーマであるようです。
再発防止提言は不十分
再発防止に関しては、各事例ごとの再発防止提言の内容が不統一、事例ごとの知見を集積・統合し、広く社会に再発防止策を提言することが十分出来てない、との指摘がなされています。
今後に向け、これまでの事例ごとの再発防止提言をレビューし、(財)日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業とも連携しつつ、広く社会に再発防止策を勧告・建議していく検討が必要、としています。
遺族や医療機関からは好評価
参加した遺族や医療機関からのモデル事業に対する評価は、アンケート結果で、遺族側も、医療機関側も、8割が「参加して良かった」との回答だったとのことです。
理由として遺族側は、「医療行為と死亡との関連が分かった」「死因が分かった」「死者のために最善を尽くせた」などを挙げ、医療機関側は、評価内容についての満足・納得を挙げているようです。
新制度創設へ向けて
モデル事業は、医療事故の原因究明・再発防止を担う中立的第三者機関の創設を念頭に開始されたものの、この5年、周知が不十分で低調に終わり、未だ課題山積の状態と言えます。
その間、厚労省において第三者機関の創設へ向け新制度法制化への取組みがなされましたが、昨年8月の政権交代以降、国としての方針が不明確化し、モデル事業関係者にも混乱が広がっているのが現状のようです。
医療事故の原因究明・再発防止を図り、医療の透明性・安全性を高めていくというモデル事業や第三者機関創設の趣旨・目的は重要です。引き続きモデル事業が継続されるのはその意味で歓迎すべきことです。
第三者機関創設に向け、国には早期に方針・方向性を明らかにしていただき、継続されるモデル事業には、より一層の広報周知と、この5年の課題を踏まえた充実した取組みを期待したいと思います。