弁護士堀康司(常任理事)(2010年7月センターニュース268号情報センター日誌より)
最高裁が速報値を公表
最高裁が平成21年の医事関係訴訟統計(1審の審理状況)を公表しました。
提訴件数の激減
平成21年の新受件数(地裁で新たに提訴された件数)は733件で、過去10年で最低の値となりました。前年の877件に対し16%も減少しており、ピークであった平成16年との比較では、実に1/3以上の減少となりました(グラフ1)。
審理期間の微増傾向が続く
平成21年の既済事件の平均審理期間は25.2ヶ月となり、平成19年を底に、2年連続で微増となりました。裁判迅速化法が目標とする2年という目安を、再び超えたことになります(グラフ2)。
判決数は横ばい、和解は減少
平成21年の既済事件のうち、判決は366件、和解は473件でした。判決件数はこの10年でほぼ横ばいであるのに対し、和解件数は3年連続で減少しています(グラフ1)。
勝訴率は2年連続で2割台
既済事件のうち判決で終了した事件における勝訴の割合(一部認容を含む)は25.3%でした。昨年、過去10年で初めて2割台(26.7%)に落ち込んだことをご報告しましたが、今年は更に低下し、低勝訴率の固定化傾向が見受けられます(グラフ3)。
既済事件のうち勝訴的な結論に至ったもの(認容判決・一部認容判決・和解の合計)の割合をみても、過去10年で最低の59.4%まで低下しました(グラフ4)。
安全文化に後退の兆し?
日本国内で行われた調査結果(堺班)では、入院患者の6.8%に有害事象が発生しており、そのうち31.3%については予防可能性が高い有害事象であったとされています。平成20年の厚労省患者統計によれば、年間入院患者数は約140万人とされていますので、毎年約3万人に予防可能性の高い有害事象が生じていることが想定されます。この10年で医療安全管理や訴訟前の紛争解決の枠組みの整備が進んだことは事実ですが、患者さんからの相談に日々対応してきた弁護士の実感としては、統計から推測される膨大な有責事故件数を吸収しうるほどの変化があったとは思えません。
そうした状況の下での提訴件数の減少は、被害を受けた患者がフォーマルな場で声を挙げにくい環境に逆戻りしつつあるのではないかとの危惧を覚えます。そして、判決の認容率の低下や和解件数の減少は、こうした傾向に拍車を掛けるおそれがあります。
統計の示す訴訟の姿が、この10年でようやく進展してきた医療安全文化の後退の兆しを示すものでないことを、祈らずにはいられません。