医療安全管理の達成度の指標は?~全国的発生頻度調査結果活用への期待 

弁護士堀康司(常任理事)(2010年8月センターニュース269号情報センター日誌より)

前号記事の訂正と補足について

 前号の本欄で、国内の年間入院患者数を約140万人と記載しましたが、厚労省患者統計では、ある特定の1日に入院中の患者数が約140万人とされていますので、年間入院患者数を140万人としたのは誤りでした。この点、お詫びの上訂正いたします。厚労省の統計によると、病院における平均在院日数は約34日(一般病床に限定すれば約19日)ですので、非常におおざっぱな推計ではありますが、年間入院患者数は140万人の10倍前後に及ぶと考えられます。

  また、前号で、有害事象発生率6.8%、うち予防可能性が高いものが31.3%とした数字は、堺班の調査の際に、国際比較の目的で、カナダでの同種調査の判定基準を当てはめた結果によるものですので、この点も補足します。

堺班の調査結果の詳細

 前号で触れた堺班の総括研究報告書のポイントをあらためてご紹介します。


・対象機関:無作為抽出された18医療施設(特定機能病院3施設と200床以上の急性期病院15施設)。

・対象診療録:各病院で無作為抽出された平成14年度の退院患者の診療録(精神科を除く)4,389

 冊。

・有害事象数:4,389件中、入院前の有害事象発生例が178件(4.1%)、入院中の発生例が263件(6.0%)。総数441件。

・死亡が早まった例は、入院前が178件中4件(2.2%)、入院中が263件中10件(3.8%)。


 <入院前有害事象で死亡が早まった事例>

 (1)前医で乳癌を見落とした

(2)前立腺癌の診断の遅れ

(3)胃内視鏡中に潰瘍が穿孔して心停止

 (4)心不全、肺炎に対する不適切な外来治療により急性腎不全を発症

 (5)施設で発症した誤嚥性肺炎

※有害事象一覧には死亡が早まった件が5件掲載されている。


 <入院中有害事象で死亡が早まった事例>

 (1)調査対象入院中に貧血を認めたが精査されず、退院後多量に下血した

(2)不適切な経口摂取指示により誤嚥性肺炎を発症

 (3)抗生物質を点滴中、けいれん発作が誘発された

(4)敗血症患者に対する緊急手術のための麻酔導入後に心停止

 (5)食道癌術後に胃管が壊死して膿胸となった

(6)心臓手術後、創部感染、MRSA肺炎を発症

 (7)膵臓癌術後の腹腔内出血

 (8)心臓大血管術後の低心拍出量症候群

 (9)緊急開腹手術後、誤嚥性肺炎を発症

 (10)不整脈患者が一般病室で心室細動となったが、看護師がアラームに気付くのが遅れた


 ・有害事象441件中、明らかに誤った医療行為や管理上の問題が認められたものは7件(1.6%)、医療行為や管理上の問題が原因となった可能性が高い(50%以上)ものは149件(33.8%)。

・有害事象441件中、予防可能性が高い(50%以上)と判定されたものは61件(23.2%)。

重大な有害事象を把握するための指標

 このように、堺班の調査結果は、入院患者4,389件のうち、入院中の有害事象で死亡が早まったものが10件(約0.23%)あったとするものです。

  このことから、急性期病院のインシデントレポート上で、入院患者の死亡事例数が入院患者総数の0.23%から大きくかけはなれている場合は、重大事例全体を把握できていない可能性が示唆されます。500床の病院で平均在院日数20日の場合なら、年間20人前後となります。

  以上は大変おおざっぱな推計ですが、より精緻な検討を加えた上で、堺班の貴重な調査結果が、安全管理の達成度を評価する際の指標として活用されることが望まれます。


※(500×365/20)×0.0023=20.9875。ただし常時満床と仮定。