弁護士園田理(常任理事)(2010年10月センターニュース271号情報センター日誌より)
2割を超える医療機関が報告「ゼロ」
去る8月31日、(財)日本医療機能評価機構(評価機構)が、医療事故情報収集事業の平成21年年報を公表しました。
この事業については本欄でも何度か取り上げて来ており、事故報告義務を負っているにもかかわらず、年間事故報告がゼロの医療機関の数が相当数に上っていることをお伝えしてきました。
平成20年10月号では、平成19年年報で、事故報告義務を負う医療機関273施設のうち約3割に当たる80施設が年間事故報告がゼロであったと報告されており、厚労省が平成20年9月1日付けで事故報告義務を負う医療機関に宛て、報告すべき事案等の周知とその報告を要請する通知を発したことを紹介したところでした。
しかしながら、この度公表された平成21年年報でも、各医療機関が厚労省からの通知を受領した後の平成21年の1年間に、273施設中61施設(22.3%)が、依然として事故報告ゼロでした。
事業が開始されて4年余り経過した平成21年においても、なお2割を超える医療機関が、事故報告義務を負っているにもかかわらず、年間事故報告ゼロのままということです。
年間「ゼロ」は明らかに報告義務の無視
事故報告義務を負っているのは、特定機能病院(病床数400以上)や国立病院、大学病院など、非常に多くの患者に診療を行っている医療機関です。400床の病院で平均在院日数を約34日とし、常時満床だと仮定すれば、年間延べ4,300人ほどの入院患者の診療に当たることになります。
400×(365÷34)≒4,294
本年8月号の本欄でご紹介したとおり、入院患者の6.8%程度の割合で有害事象が発生しているとの調査報告があります。有害事象には、院内感染や不可避の合併症なども含まれ、医療事故よりやや広い意味を有する概念だとのことですが、そのうち、明らかに誤った医療行為や管理上の問題が認められたものと、医療行為や管理上の問題が原因となった可能性が高い(50%以上)ものとに限定したとしても、なおそのような事故が3.6%発生しているとのことです。年間延べ4,300人の入院患者の診療に当たる医療機関であれば、年間約150人にそのような事故が発生することになりますし、年間28人の入院患者しか診療しない医療機関でも年間1人に事故が発生する計算になります。
平成21年年報によれば、事故報告義務を負う医療機関273施設は、少ないところでも20床以上で、169施設が病床数400以上です。
にもかかわらず61施設で年間事故報告がゼロ、その61施設のうち24施設が病床数400以上というのは、おかしいと言わざるを得ません(ちなみに、平成20年年報によれば、平成16年10月から平成20年12月までの4年3ヶ月間に事故報告を1度もしなかった医療機関が24施設もあります)。
事故報告義務の履行が明らかに懈怠され無視されている疑いが極めて濃厚です。
評価機構・医療機関は真剣な取り組みを
医療機関から事故報告をさせ、それにより収集した事故情報を分析し提供することで、広く医療安全対策に有用な情報を医療機関相互に共有するとともに、国民にも情報提供して医療安全対策の一層の推進を図る…
この医療事故情報収集事業の趣旨が、相当数の医療機関に無視されているのが現状だと言わざるを得ません。厚労省の通知もまた無視されています。このまま手をこまねいて放置しておくべきではありません。
評価機構は、事業の実施主体として事故情報収集を適正に行う責務があり(医療法施行規則12条の4・・)、事故報告義務が尽くされていない疑いのある医療機関に対しては、報告を求めたり訪問調査をしたりなどして義務履行を求め、その医療機関が病院機能評価認定を受けながら事故報告義務を怠っているような場合は、法令違反があるとして、是正措置等を求め、その対応次第で、認定証の返還を求めたり、認定を取り消したりなどすることも視野に入れ、法令に基づく事故報告義務の履行を求めていく必要があります。
それでも改善されない場合には、厚労省が、評価機構に、事故等分析事業の事務の状況に関する報告(医療法施行規則12条の15)として各医療機関からの事故報告状況を報告させ、事故報告義務の不履行が疑われる医療機関に必要な報告を命じる(医療法25条3項)などの措置を講じることとなりますが、そのような事態にならないよう、今、医療事故情報収集事業の趣旨を無にしない真剣な取り組みが、評価機構や事故報告義務を負う医療機関に求められています。