弁護士園田理(常任理事)(2011年2月センターニュース275号情報センター日誌より)
新モデル事業:院内事故調査レビューモデルの試行へ
日本医療安全調査機構の下で継続実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(新モデル事業)では、昨年12月7日、第3回運営委員会が開催され、本年4月から、調査依頼医療機関の院内事故調査委員会が作成した報告書をレビューするモデルを試行していくことが決められました(ホームページで公表されている議事録3頁~10頁、配付資料3の(1)、資料3-1を参照ください)。
これまでのモデル事業受付事案でも、調査依頼医療機関では院内事故調査委員会が開催され、そこで内部的に死因の究明、再発防止策の検討がなされて、その結果が報告書として評価委員会に提出されていました。しかし、これまでは、モデル事業の評価委員会が、そのような報告書を検討材料にしつつ、最終的な死因の究明や再発防止策の提言、評価結果報告書の作成を責任をもって行っていました。
これに対し、このレビューモデルでは、あくまでも死因の究明や再発防止策の策定自体は、医療事故が発生した医療機関の院内事故調査委員会がなすことになり、その調査結果を評価委員会がレビュー(評価)だけすることになるようです。
レビューモデルが試行される医療機関は?
レビューモデルを試行するのは、医療安全管理体制が整備されている中規模以上の病院が対象とされています。
そして、当該医療機関のみでは中立性や透明性の確保が困難な中規模病院の場合は、モデル事業側で院内事故調査委員会に外部委員を派遣するなどして院内事故調査を支援しつつ報告書をレビューする、過去に外部委員参加型の院内事故調査委員会を組織して院内事故調査を行った実績のある大規模病院の場合は、単に報告書をレビューする、とされています。
院内事故調査は軌道に乗ってきた?
このようなレビューモデル試行の背景には、多くの病院で院内事故調査委員会の活動が軌道に乗ってきており、とりわけ大学病院のような大規模病院では、院内事故調査委員会による調査に対してモデル事業側がどうこう言う必要がなくなってきている、との認識が前提にあるようです(第1回運営委員会議事録12頁)。
しかし、第3回運営委員会では、このような前提認識に疑問を呈するような次のような意見も出されていました。
・やはり第三者機関が少し関わらないと、出て来た最後のペーパーを見るだけでは、社会的にどうかと思う。
・大学病院の院内事故調査委員会の報告書にもあまり評価のよくないのがあった。大学病院の院内事故調査だからといって必ずしも評価委員会で評価されていたとも思えない。
・国立の病院でもひどい報告書を出してきた事例もあるので、すべての病院が既に院内事故調査委員会が完成しているとはとても思えない。現実は、そういうひどいところがあることをご理解いただきたいと思う。
中立・公正な死因究明は大丈夫?
中立な第三者機関が、診療関連死の死因を究明し、再発防止策を策定することで、医療の透明性を高めるとともに、医療事故の再発防止を図ろうというのが、モデル事業の目的です。
ところが、運営委員会で上述のような意見も出されている状況の中、医療安全管理体制の整備状況や、院内事故調査委員会の構成、調査手順等につき緩やかな条件で安易にレビューモデル試行がなされてしまえば、院内事故調査委員会の不公正・不透明な調査結果をモデル事業側が追認するだけに終わってしまうおそれがあります。中立・公正な死因究明により医療の透明性を高めようとするモデル事業の目的は到底達成できません。
患医連(患者の視点で医療安全を考える連絡協議会)は、本年1月20日、日本医療安全調査機構に対し、上述のようなレビューモデルの試行に反対し、医療事故被害者の意見聴取などを求める要望書を提出しました。このような患者・医療事故被害者からの意見聴取などを踏まえ慎重に制度設計がなされるべきです。
レビューモデル試行の対象医療機関となるための具体的な条件など細部の詰めは本年4月までになされるようです。新モデル事業の動向を注視していく必要があります。