弁護士松山健(嘱託)(2011年7月センターニュース280号情報センター日誌より)
検討会の議論とりまとめ
消費者庁「事故調査の在り方に関する検討会」は消費者事故に関する「消費者事故等調査機関」(仮称)の在り方についての検討を重ね、平成23年5月31日の第14回で「取りまとめ」を公表しました。本年度中に政府の「消費者基本計画」の見直しに反映させ、早ければ2012年度の設置を目指します。「取りまとめ」40頁弱、「取りまとめ(概要)」6頁で要点が簡潔に整理されているので、詳細は、消費者庁のHPに譲り、本稿では、医療事故に関連する検討状況に絞ってご報告します。
制度創設の背景
現行制度下では、航空機、鉄道事故等については、既存の常設事故調査機関が存在しますが、エレベータ事故やこんにゃくゼリー事故等、所管が一義的に明確でない分野の事故(すき間事故)への対処が不十分であり、他方、刑事手続のみによっては、事故の予防・再発防止には不十分です。また、常設的事故調査では、被害者・遺族は調査の客体とされがちで、事故における重要な当事者として遇する配慮に欠ける嫌いがありました。そこで、各省庁の縦割り行政による弊害を解消し、消費者の権利を尊重し自立を支援するため一元的な司令塔となることを理念に設置された消費者庁のもとに調査機関を設置することが検討されることになりました。
既存制度との関係
検討会では、調査機関の在り方について、「パーティー・システム」(調査機関自体に完全な専門性を持たせるのではなく、支援機関を活用する形態を取ること)の活用等によって、既存の専門的事故調査制度(将来設置される医療事故調査機関を含む)を包摂、統括し、ゆくゆくは一元的に統合するのか、それとも既存の制度と並存し、消費者被害、製品事故の分野や、すき間事故の分野を担当する新たな一事故調査制度として位置づけるのかという点について、大きな対立がありました。結局、取りまとめでも、結論は出ず、将来の課題とし、当面のところ、「消費者事故等調査機関」(仮称)は、消費者安全法にいう生命・身体被害に関する「消費者事故等」(=「事業者が供給等する製品・食品・施設・役務等を消費者が使用等することに伴って生じた事故・事態」)の調査を実施し、別途、「消費者事故等調査評価会議」(仮称)を設置して、複数の調査機関や関連機関の調整・連携を図る体制を整備するとしています。
事故調査の対象~医療事故は含まれるか
取りまとめは、上記のように、調査対象は「消費者事故等」の定義通りとするので、医療行為に関する事故も「消費者事故等」に含まれ得るとしますが、手術対象の左右を取り間違えたり、薬剤の使用方法や分量が違ったりといった事案を除き、いわゆる医療の不確実性に起因する事案は、「消費者事故等」に該当しないとします。もっとも、医療の不確実性に起因する事案か否かは高い専門性を有する機関による調査・分析を必用とします。
つまり、医療事故については、他の消費者事故等とは違って、調査すべき事故なのかそうでないのかをまず専門的に判断しなければならないということです。
まとめ
検討会は、医療事故に強い関心を持ち、日本医療機能評価機構、モデル事業、医療被害者等多くの関係者からのヒアリング等を行い、医療版事故調の議論を踏まえて、慎重に議論し、医療事故を調査対象から外すことも検討しましたが、結論としては、調査対象から医療事故を完全には除外しないことになりました。制度発足後の運用次第では、医療に関連する事故についても調査が行われる場面が出てくることも考えられます。
美容、エステ、いわゆる自由診療型被害(美容整形、インプラント、レーシック、レーザー椎間板治療)等、類似事故の多発性と消費者自身による回避可能性の認められる類型、また、類似した名称の医薬品の取り違えや医療機器の誤使用等予防策の周知による効果が期待できる類型などでは、医療専門の事故調査機関とは違った機能を発揮して相互補完できる可能性もあり、今後を見守っていく必要があります。