弁護士松山健(嘱託)(2011年11月センターニュース284号情報センター日誌より)
厚労省検討会初会合
厚労省は、「専門医の在り方に関する検討会」の初会合を平成23年10月13日に開催しました。検討会は、従来から指摘されていた専門医の質担保だけでなく、医師の偏在是正や総合医のあり方なども含めて幅広く議論し、来年夏頃に中間取りまとめをし、来年度中には最終報告書を取りまとめる方針が示されています。
専門医制度の現状
専門医制度の意義としては、医療の質の向上、患者への情報提供、病診連携推進が指摘されます。
我国の専門医制度の歴史は、昭和37年の麻酔科学会の指導医制度に始まり、その後、各学会が相次いで専門医制度の実施を始めますが、個々の学会がそれぞれ独自に認定を行い、統一的な基準が存在しないため、社会的な認知が得られないなどして、昭和56年、各学会が共同で、学会認定医制協議会(その後、専門医認定制協議会、現在、社団法人日本専門医制評価・認定機構に組織変更)を発足させ、現在も専門医のあり方が模索されている状況です。
患者の抱くイメージとの乖離
検討会では、平成18年度の意識調査結果が事務局提出資料として出されています。一般人の専門医に対するイメージでの上位回答は、上から順に、「テレビなどで取り上げられているスーパードクター」「重傷・難病の患者を治療している医師」「医学系学会などで認定された医師」「大学・研究所などで研究している医師」、また、専門医に対しての期待については、上位から順に「疾患(病気)に対する知識」「診断の正確さ」「治療法(薬物療法・手技)への精通」「医師としての能力」があがっており、「専門医」との表示に対する一般人の抱く信頼感・期待には高いものがあることがわかります。
それだけに、認定基準にばらつきがあり、その質が必ずしも担保されているとは言い難い現状(特に技術的な担保が必須と考えられる外科系でも、必ずしも全ての学会専門医が技術的な認定を受けているとは限らない点は問題点として指摘されるところです。)の専門医制度が、患者側の抱く信頼・期待と大きくかけ離れたものになっていると言わざるを得ず、従来から、問題点として指摘されているところです。
広告について
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厚労省外形基準
1 法人格具備
2 会員数1000名以上、正会員の8割が医師、歯科医師
3 5年の活動実績
4 外部からの問い合わせに対応できる体制整備
5 取得要件の公表
6 5年以上の研修受講を要件とすること
7 試験実施
8 5年に1度の更新
9 会員・専門医名簿の公表
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患者の信頼・期待は「専門医」との広告によって増幅されます。従来、専門医の広告は禁じられてきましたが、平成14年に厚労省は外形基準を規定し、これをクリアする学会の認定する専門医である旨の広告は解禁されるようになっています。現在、外形基準により厚労省が広告を認めるのは57学会の55資格です。
もっとも、厚労省の外形基準は主に認定団体に関する基準で、認定基準については大枠を示すのみで、具体的な認定基準自体は個々の学会毎に委ねられており、多様なままです。広告解禁によって、雨後の筍のように、新たな専門医が続々と誕生していますが、外形基準は患者が医師を選ぶ際のクオリティ・シグナルとしては満足に機能しないため、以前にも増して質担保の実現が要請されているのが現状です。
論 点
その他、専門医制度の問題点は極めて多岐に亘り、本稿では到底紹介し切れませんが、指摘される論点の主立ったものを以下にまとめておきます。
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・認定基準の標準化をどう行うか
・認定は第三者機関によるべきか
・プライマリケアを行う総合医(家庭医、かかりつけ医)の専門医資格の創設と、プライマリケアから
個別領域の専門医への病診連携の確立の要否
・患者が最初に訪問する診療科(基本領域)の「認定医」と専門分化した診療科(subspecialty領
域)の「専門医」の二段階制を設けるべきか
・質だけでなく、量(診療科・地域毎の専門医数)のコントロールを行うべきか
・専門医に至る教育・研修プログラム(現在の臨床研修制度の改革を含む)
・専門医制度に法的裏付けを与えるべきか
・専門医に対する医師技術料(ドクターフィー)の診療報酬上の加算を認めるべきか
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専門弁護士制度
上記の意識調査結果では「専門医・認定医の資格を取りたいと思いますか」との問いに対する2年次研修医の「そう思う」との回答は90.9%と医学博士号の35.3%に比して高い取得意欲が認められます。このような個々の医師の意欲に見合う制度設計が望まれます。
さて、実は、専門認定制度は弁護士にとっても他人事ではありません。日弁連の業務改革委員会は、プロジェクトチームを立ち上げて、専門弁護士制度創設を検討し、将来的な専門弁護士認定制度導入を目指しつつ、当面、専門分野登録弁護士制度を発足させる計画を進めており、すでに提案について執行部の承認を得て、この秋に各単位会等に意見照会を行います(この制度の専門登録分野につき当初導入されるパイロット5分野の一つとして医療過誤が入っております。)。
専門弁護士制度も、専門医制度と同じように多くの問題を有する制度であり、医療界と同じ轍を踏むことのないよう、目を光らせていく必要があります。医療過誤問題研究会(愛知県)では、先般横浜で開催された全国交流集会で、専門弁護士制度についての研究発表を行いました。集会の報告書が完成した際には、ご一読ください。