弁護士園田理(常任理事)(2012年2月センターニュース287号情報センター日誌より)
医療事故発生等の実情把握は未だなされず
昨年12月の本欄でご紹介した厚労省の無過失補償検討会(正式名称は、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会)の第4回会合が、昨年12月22日に開催されました。当日の議題や配布資料が厚労省のHP上で公表されています。
12月の本欄で、医療事故の無過失補償制度を検討していくに当たっては、医療事故の発生件数や、医療事故の賠償責任保険での保険給付額等の実情を把握する必要がある、実情把握のためには、賠償責任保険の財政規模、保険金の支払状況等の情報収集が必要だ、と述べさせていただいていました。
しかし、公表されている配布資料を見る限り、厚労省が日本医師会や損害保険会社、金融庁等に対して照会をなし、上述のような情報を収集した様子は見られません。残念です。
事故原因究明・再発防止のあり方について検討
部会設置へ
第4回会合の議題には、検討会の今後の進め方が挙げられ、配布資料には、設置する「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」の開催要綱(案)等が入っています。
医療事故の原因調査や再発防止のための仕組みのあり方については、今後、検討会内に、別途検討部会を設置して、検討を進めて行く方向で議論されているようです。
事務局による論点整理案提示
第4回会合の配布資料には、今後検討が必要な論点(案)も入っています。事務局が今後検討会や部会で検討を進めていく論点案を整理したものだと思われます。
第4回会合では、そのような論点案に沿って今後の検討を行っていくことについても議論されたようです。
まずは医療事故発生等の実情把握に重点を!
医療事故発生等の実情を窺い知ることのできる資料として第4回会合までに配布されているのは、医療事故情報収集等事業における事故報告件数の資料と、医療事故の全国的発生頻度や発生件数の推計に関する研究結果の資料程度です。
医療事故情報収集等事業における事故報告は、本欄で何度か取り上げて来たとおり、事故報告義務の履行が十分になされているとは到底言えず、医療事故発生等の実情を反映したものとは到底言えません。医療事故の発生頻度や発生件数の推計に関する研究結果も、真に事故発生の実情を反映した推計と言えるのか、疑問なしとしません。
また、仮に無過失補償の申請を、産科医療補償制度と同様、医療機関を通じて行う制度として構築する場合、現在の医療事故情報等収集等事業における事故報告状況のように、医療機関ごとに申請状況が区々になるような制度設計がなされてしまうと、公正な被害救済がなされないこととなってしまいます。
無過失補償制度の設計に当たっては、医療事故発生等の実情をきちんと把握した上、その実情を踏まえた適正かつ公正な制度として制度設計を進めていく必要があります。そのためには、医療機関による医療事故の報告や抽出のあり方それ自体を重点的に検討すべき論点として明確に掲げ、今後検討会や部会において十分に検討していく必要があります。公表されている論点案にも、この点は含まれていると考えられますが、より明確に論点として掲げ、重点的に議論が行われるべきです。
果たして医療事故発生等の実情把握がどこまできちんとなされるのか。
検討会での議論状況に引き続き注目していきたいと思います。