補償対象者数は想定を下回る?~産科医療補償制度の見直し検討始まる

弁護士園田理(常任理事)(2012年6月センターニュース291号情報センター日誌より)

産科医療補償制度の見直し検討始まる

 平成21年1月から産科医療補償制度が開始され、同月以降の出生児から補償が始められていますが、この制度の運営に当たっている日本医療機能評価機構の産科医療補償制度運営委員会は、本年2月より、制度見直しのための検討を始めています(産科医療補償制度のホームページで公表されている運営委員会の議事録等を参照ください)。

  1年後の来年2月には制度見直し報告書を公表し、制度開始から5年目となる平成26年1月から見直し後の新制度を始める、との目標で検討が進められています。

  このように見直しの検討が始められたのは、制度創設に当たり、「遅くとも5年後を目処に、本制度の内容について検証し、補償対象者の範囲、補償水準、保険料の変更、組織体制等について適宜必要な見直しを行う」とされていたことを受けてのことです。

補償対象者数は想定を下回る?

 補償対象者の範囲、補償水準、保険料の変更など、制度の見直しを考えるに当たっては、前提として、制度創設時の見込みと比べ、実際の補償対象者数がどのようなのかが問題になります。

  制度創設に当たり補償対象者数は年間500~800人と推計されていました。

  しかし、現状は、初めて補償対象認定がなされた平成21年9月から平成23年12月までの2年4ヶ月の間に、合計252人が補償対象認定されるに止まっています。

  制度開始の平成21年に生まれた児の補償対象者数も、平成23年末までの累計数で、158人に止まっています。補償申請は満5歳の誕生日まで可能ですが、平成23年末までに平均して満2歳半になっていて、月ごとの補償対象認定数も平成23年後半からはやや減少傾向に転じているとのことです。低緊張型の脳性麻痺や運動障害部位が上肢のみの場合など、3歳以降に診断するよう案内しているものもあり、今後も相当数の増加が見込まれる、と報告されていますが、最終的に平成21年の出生児の補償対象者数が300人に満たない可能性もあると思われます。

  補償対象者数が年間300人を下回る事態が続くような場合、その分の剰余金は、損保会社が、評価機構に戻し入れることなくそのまま取得し続け、公的資金によって利益を上げ続けるという問題が生じます(2010年3月号の本欄を参照ください)。

  今後の補償対象者数の推移を見極める必要がありますが、将来的には、300人という損保会社からの戻入れの基準人数の見直しも検討されるべきです。

原因分析・再発防止の現状

 平成23年12月末までに補償対象認定がされた252人のうち、同月末までに原因分析報告書が保護者に送付済みなのは87人。補償対象認定されてから半年~1年後に原因分析報告書を送付している状況とのことです。医師の中には原因分析報告書が送付されると損害賠償請求等につながるのではといった危惧を述べる人もいるようですが、報告書送付から半年以上経過している事案43件中で2件(4.7%)、1年以上経過している事案20件中で1件(5.0%)、損害賠償請求等が行われているにすぎません。危惧を裏付けるような状況は認められていません。

  原因分析された個々の事例情報を基にした再発防止に関する報告書が、平成23年8月の第1回に続き、平成24年5月に第2回目が出され、ホームページ上で公表されています。全体的な統計分析とともに、テーマごとの分析もなされ、再発防止提言がなされています。

今後の議論に注目

 本制度に関係する有識者、分娩機関、患者保護者などからヒヤリングを実施した上、今後、重点検討項目を絞り込んでいくとのこと。引き続き制度見直しの議論状況に注目していきたいと思います。