医療安全機関(仮称)の創設を求める意見書

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医療安全機関(仮称)の創設を求める意見書 

2012/06/13
医療事故情報センター
理事長 弁護士 柴田 義朗
名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
電話・052-951-1731 FAX・052-951-1732
http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/ 

 全ての人には、安全で質の高い医療を受ける権利があり、国は、安全で質の高い医療を実現する責務を負っています。
 我が国では1999年に相次いで発生した医療事故をきっかけとして、ようやく、医療の安全の重要性が認識されるようになり、2004年9月30日には、日本医学会加盟主要19学会が「『医療関連死』届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意」を示す共同声明を明らかにし、2008年6月には、厚生労働省から医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案が示されるなどしたものの、一部の医療界の反発などから、医療の安全を確保するための制度は、未だに実現されていません。
 そこで、当センターは、患者の立場にたって医療事故に関する事案を担当してきた弁護士の団体(2012年5月1日現在正会員653名)として、次のとおりの基本原則に基づいて、医療安全機関(仮称)の創設を求めます。

1 医療安全機関の創設 

  国は、安全で質の高い医療を実現する責務を果たすために、独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を備えた第三者機関である医療安全機関(仮称)を創設し、医療事故情報収集分析事業と医療事故調査事業を行う。

2 医療安全機関創設の目的 

  医療安全機関創設の目的は、安全で質の高い医療を実現することにある。
  安全で質の高い医療が実現され、被害者と社会の双方に対する説明責任が果たされた結果として、紛争が減少したり、刑事司法の関与が減少することになるものであって、紛争減少や刑事免責を目的として医療事故調査制度を設計してはならない。

3 医療事故情報収集分析事業の実施

  医療事故情報収集分析事業の骨格は次のとおりとする。
(1) 医療機関の管理者または医療従事者らは、医療事故によって患者に一定以上の被害が発生した場合には、すみやかに、医療安全機関に報告する。
(2) 診療に関連する死亡事故が、医療安全機関に対して24時間以内に報告された場合は、医師法21条に基づく届出は不要とする。
(3) 医療安全機関は、患者・家族からの報告も受け付ける。
(4) 医療安全機関は、報告された情報に基づいて原因を分析し、再発防止策を策定し、これを広く周知する。
(5) 医療安全機関は、医療安全に関する国の施策について、提言・勧告等を行う権限を持つ。 

4 医療事故調査事業の実施

  医療事故調査事業の骨格は、次のとおりとする。
(1) 医療安全機関は、死亡・重大後遺症発生等の一定の重大事故について、医療事故の経過と原因を調査・分析し、再発防止策を策定して、調査報告書を作成する(以下、医療事故調査という)。
(2) 死亡事例については、他機関とも協働し、死因究明のための適切な解剖を行う制度設計とする。
(3) 当該医療機関や学会等は、医療安全機関の指導・監督の下で、医療安全機関が推薦する外部委員・非医療専門家委員を選任する等の適切な方法により、医療事故調査を行うことができる。
(4) 医療事故調査にあたっては、患者・家族が関与する機会(意見陳述、傍聴等)を確保する。
(5) 医療安全機関は、調査報告書を患者・家族及び当該医療機関に交付し、その利用方法に特段の制約は付されない。
(6) 医療安全機関は、調査報告書に基づいて、当該医療機関における再発防止策の実施について指導・監督・検証する。
(7) 医療安全機関は、プライバシーに配慮した上で調査報告書を公開し、再発防止策の周知を行う。 

5 無過失補償制度について

  医療安全機関が実施する上記2事業によって集約された情報に基づき、無過失補償事業を創設する。その骨格は、次のとおりとする。
(1) 一定の基準に該当する被害については、過失の有無を問わずに補償を行う。
(2) 補償の実施は、過失を原因とする損害賠償請求を妨げない。
(3) 過失がある場合には、当該医療機関は、補償金相当額の求償を受ける。 

6 刑事司法との関係について

  医療安全機関を創設するにあたり、医師を特別に刑事免責する制度を設ける必要はない。
  医師による医療事故の届出が自己の犯罪の発覚の端緒となる不利益を生じうることは、医師の社会的責務に付随する合理的根拠のある負担として許容されるものである。
  患者に対してすすんで医療事故の事実を明らかにし再発防止に努める医師に対して、刑事司法が謙抑的に運用されることに異論はなく、現に謙抑的な運用がなされている。
  他方で、広く医師を刑事免責する制度は、医師だけを特別に優遇するという不公平を伴うところ、この不公平を許容する合理的理由も社会的な合意も存在しない。
  刑事免責を前提とする医療事故調査制度を設計することは、国民の医療に対する信頼を大きく失墜させるものである。