医事関係訴訟認容率、V字回復?

弁護士松山健(嘱託)(2012年7月センターニュース292号情報センター日誌より)

医事訴訟統計

 今回は、最高裁判所が公表した医事関係訴訟に関する統計についてご報告します。一部報道では、認容率の低下を強調する趣旨か、平成22年までの数値のみが公表されたように伝えられていますが、平成23年の速報値も公表されています。紙面の関係上、診療科目別既済件数(内科、外科の減少はあるものの有意な変動は見られません)はご紹介できませんので、裁判所WEB医事関係訴訟委員会のページでご確認ください。なお、以下引用する今回の統計以外の通常事件に関する統計の数値は、「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(概要)」(平成23年7月。以下「報告書」)によります。

医事訴訟の処理状況・平均審理期間(平成23年)

新受  既済   平均審理期間(月)

767  801        25.1


  767件の提訴件数は、ピークの平成16年の1110件と比べて、約30%の減少となっています。これは、平成16年の通常事件の新受件数が13万5792件で、平成22年は22万7435件と約70%も増加していることと比べると、激減と評すべき数字です。

  平均審理期間は、平成14年の30.9月から25.1月に短縮していますが、通常訴訟の6.8月(平成22年)の約3.7倍であり、やはり医療訴訟は時間がかかるということが確認できます。

医事訴訟の終局区分別既済件数・割合

医事訴訟   通常訴訟比率

終局  (平成23年)   (平成22年)

区分  件数  比率  除過払 含過払 

               (%)   (%)   (%) 

判決  294  36.7  50.5   36.8

和解  406  50.7  34.0   32.0


 通常訴訟(過払事件以外)と比べると、医事訴訟では、判決と和解の比率が逆転し、和解率が高いことがわかります(平成15年以降50%前後で推移し、特に上昇傾向は認められません)。

医事関係訴訟事件の認容率

平成    地裁一審通常訴訟      医事関係訴訟

       (%)  うち人証調べ実施       (%) 

14年  84.9     68.2           38.6

15年  85.2     68.7           44.3

16年  84.1     67.4           39.5

17年  83.4     65.4           37.6

18年  82.4     63.5           35.1

19年  83.5     63.8           37.8

20年  84.2     62.4           26.7

21年  85.3     62.5           25.3

22年  87.6     62.3           20.2

23年  84.8     62.5           25.4


 通常訴訟事件全体の認容率が、この10年の間85%前後で推移し変動がないことと対比すると、元々認容率の低い医事訴訟のみが平成15年のピーク(44.3%)から僅か5年で、さらに半分以下の認容率(22年、20.2%)にまで急降下していることがわかります。

認容率低下の原因

 原因については次のように様々な分析・推測がなされ、諸要因が複合的に作用していると考えられています。

①示談・ADR等裁判外での解決の増加と反面での困難案件の訴訟への集約傾向、高い和解率による認容相当事案の吸収

②医療崩壊キャンペーンの鑑定人・裁判官への影響、鑑定人選任に関する協議会等を契機とする裁判所の医療現場へのシンパシーの醸成による判断の厳格化

③弁護士増員が医療側弁護士よりも患者側弁護士の側の均質性のばらつきを招き、原告被告間に力量差が出た

④弁護士増により、従来に比べて提訴段階でのふるい落としがなされなくなった

統計から窺われること

 統計的に検証不能な②や③はさておき、①と④について見てみます。前述のように通常事件の提訴件数は年々増加傾向にあり、報告書では新受件数と弁護士数の増加がほぼ比例し逆放物線を描いて近年急上昇していることが確認できます。この全体の増加傾向にもかかわらず、それに逆行するように医事訴訟は減少傾向にあります。

  現実の医療事故の発生件数が減った、または、泣き寝入りが増えたとは考えにくいことからすると、激減と評し得る提訴件数減少からは、④の負け筋案件での提訴増加との推測が基礎付けられるとは考えにくい反面、①の裁判外での解決の相当程度の増大が窺われます。

  少なくとも統計からは、裁判外の紛争解決の増加が推測され、これと提訴後の高い和解率とが相俟って、最終的に判決に至る事件がシビアなものに絞り込まれる度合いが年を追う毎に強まってきたということはいえるでしょう。

認容率再浮上のきざし~回復傾向は続くか?

 ところで、平成23年の速報値では、平成21年とほぼ同率の25%台への回復が見られます。平成22年で底打ちとなって、今後も回復傾向が続くことを期待したいところです。