弁護士堀康司(常任理事)(2012年12月センターニュース297号情報センター日誌より)
人権擁護大会決議を踏まえた法律大綱案
本年9月14日、日本弁護士連合会(日弁連)は、「患者の権利に関する法律大綱案」を提言として公表しました。
これは、昨年10月の日弁連人権擁護大会決議において、患者の権利に関する法律の制定を求める決議を採択したことを踏まえて、実際の法律制定に向け、法律大綱案という形で日弁連がとりまとめたものです。
提案に至った背景
日弁連がこうした提言に至った背景としては、1)制度の不備、貧困、インフォームドコンセント原則の浸透不十分等といった要因のために患者の権利が十分に擁護されていない現状があり、患者の権利を明文で確認する必要があると考えられること、2)ハンセン病患者隔離政策によって著しい人権侵害が引き起こされたことを踏まえて、再発防止が議論された成果として、2009年に、国の検討会が、患者の権利に関する体系をまとめて医療基本法を法制化する必要があることを提言したことなどが挙げられます。
大綱案の構成
この大綱案は、「前文」「1 医療における基本権」「2 患者の権利各則」という構成となっています。
前文では、最善かつ安全な医療を全ての人が必要なときに受けられる医療制度を確立するには、日本国憲法(13条・25条)や国際人権規約等に根拠を持つ患者の権利を明らかにすることが必要であることが説明されています。
人間の尊厳の不可侵に由来する基本権
「医療における基本権」の項では、人間の尊厳の不可侵という大原則を確認した上で、12項目にわたる患者の基本的権利(最高水準の健康を享受する権利、疾病又は障害による差別を受けない権利、最善の医療を受ける権利、安全な医療を受ける権利、平等な医療を受ける権利、知る権利、自己決定権、プライバシーの権利、学習権、医療に参加する権利、通常の社会生活や私生活を保障される権利、人対象研究における被験者の権利)が列記されています。また、こうした基本的権利の実現に向けた国・地方公共団体や医療従事者の基本的責務も規定されています。
各則と権利擁護の手続
「患者の権利各則」の項においては、権利擁護が要請される代表的な5つの局面(医療における情報に関する権利、患者の自己決定権、医療を受ける子どもの権利、不当な拘束などの虐待を受けない権利、医療事故の被害の救済を求める権利)のそれぞれに関して細目が定められています。また、権利擁護のための手続として、医療機関が患者の権利擁護員・患者の権利擁護委員会を設けるとともに、国が都道府県毎に患者の権利審査会を設置することが求められています。
早期の実現に向けて
三井辨雄厚生労働大臣は、本年10月30日の閣議後会見で、日弁連の大綱案に対し、「意見をしっかり聞きながら、対応していきたいと思います」とコメントしています。
衆議院は解散となりましたが、選挙の結果の如何に関わらず、患者の権利法の必要性に関する認識がより浸透していくことを期待したいと思います。