「医師等資格確認検索システム」拡充へ

弁護士松山健(嘱託)(2013年3月センターニュース300号情報センター日誌より)


  厚労省は平成25年2月15日、インターネット上の「医師等資格確認検索システム」(「検索システム」)の拡充を、同年夏を目処に行う予定を発表しました。これは、現行の検索システムの下で医師のなりすまし事件が相次いだことを受けての対応です。

医師なりすまし事件の頻発

 平成24年は、偽医師のなりすまし事件が数多く発覚した年でした。偽医師が、「医師国家資格認定証」なるカードを示して被災地でのボランティアの「専属医」として問診や投薬等の医療行為を行っていた事件、偽造した免許証を示して採用された板橋区の総合病院で非常勤医師として健康診断の問診などを行っていた事件等が相次ぎ、9月末に、厚労省は、各都道府県に資格確認の徹底を求める通知を発出していました。
 しかし、その後も、11月に、東京港区の美容整形外科で医師ではない事務長が数年に亘り男性の陰部増大手術を行っていた事件、平成25年2月には、八王子市で非常勤医師として診察を行い、注射や採血をし、処方箋や他の病院への紹介状を作成するなどしていた事件が発覚するなどしています。いずれも医師法17条違反(無資格医業)等で立件され、判決に至っている事件では、裁判所も実刑判決という厳しい姿勢を示しています。

検索システムの現状

 検索システムは、「医師等の行政処分のあり方等に関する検討会」の報告書(平成17年12月)の①偽医師の医療提供等を防止し、②医業停止処分等の行政処分を受けている医師の医療の提供を防止し、国民の生命・健康を保護する観点から、医師資格と行政処分の確認がホームページ上でできることが望ましいとの提言を受けて、平成18年に医師法等を改正して医師等の氏名を公表することとし、平成19年から導入されたものです。現行の検索システムでは、医師・歯科医師の別、氏名、性別、登録年及び該当者の行政処分に関する情報(処分の種類及び期間)が確認できます。

医師採用時の落とし穴

 厚労省は医療機関に医師の採用時に、免許証原本で医師免許の有無を確認すること、その際に検索システムを活用することを求めてきました。もっとも、検索システムにより、実在の医師の氏名から登録年を調べられるため、氏名と登録年が正しい免許証を偽造することが可能であり、医籍番号や生年月日を適当に記載した偽造の医師免許証が提示された場合、医療機関が現行の検索システムで検索しても、氏名と登録年が合致するため、真正な免許証の存在を誤信してしまう余地がありました。板橋の事件では、犯人は、検索システムで同姓同名の医師を探し、ネット上で医師免許証のコピーを入手して免許証のコピーの偽造を行っており、偽医師を防ぐための検索システムが偽医師を生む契機となるという皮肉な事態に至ってしまいました。

導入の予定される新システム

 そこで、新システムでは、医療機関がより厳格に医籍を確認できるよう、氏名と生年月日、医籍登録番号、医籍登録年月日を入力して(全項目必須)検索することとし、検索結果は、医籍登録の該当の有無のみが表示される形が想定されています。厚労省のプレスリリースの参考資料では、現行の検索システムを廃して完全に医療機関向けに改変するのか、現行のものを残して新たに医療機関向けの検索システムを併設するのか、明確ではなかったため、厚労省に確認したところ、併設する形での導入を予定しているとのことでした。
 いかに採用時のチェックを厳格化したとしても、巧妙な偽造や採用側の不注意によって、偽医師がチェックをすり抜けてしまう余地は残りますので、事後的なチェック機能を果たすべく、一般向けの検索システムを残すことは評価できます(もっとも、現行の検索システムは、氏名は完全一致検索で、姓や名のみ、または読み仮名では、検索を行うことができず、必ずしも使い勝手はよくないので、改善が求められます)。

免許証の側からの改善も

 そもそも、現行の医師免許証は、B4の賞状型で、携帯性がありません。透かしが入り、原本自体の偽造は容易ではなくても、コピーの偽造は容易です。大きく汚損・破損しやすい形態であることが医師の側、病院の側双方に原本による本人確認を怠らせ、コピー確認で済ませる要因ともなっています。罰則で原本確認を義務付けるに至らない限り、現在の免許証の形態は、なりすまし問題のほとぼりが冷めた後の原本確認懈怠の素地となり得ることは否めません。免許証の形態については医師法上も同法施行令・施行規則上も定めはなく、顔写真付きのカード型にすることなど、免許証の側からの対策も検討の余地が残っているといえるでしょう。