弁護士園田理(常任理事)(2013年6月センターニュース303号情報センター日誌より)
第3回再発防止報告
ご承知のとおり、産科医療補償制度では、①分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児のご家族に対し経済的補償がなされるとともに、②各補償対象事例について原因分析委員会が原因分析を行い、③集積された多くの事例の原因分析結果を基に再発防止委員会が分析を加え、将来の脳性麻痺の発症の防止に資する情報を広く公表し、産科医療の質の向上を図るものとされています。
本年5月、再発防止委員会は、再発防止に関する報告書を産科医療補償制度のHPに公表しました。平成23年8月の第1回、平成24年5月の第2回に続く第3回目の報告書です。補償対象事例のうち、平成24年12月末までに公表された事例188件が分析対象とされています。
以下、報告書の内容の一部をご紹介します。
脳性麻痺発症の主たる原因
188件のうち、脳性麻痺発症の主たる原因は概ね次のとおりとのことです。
常位胎盤早期剥離 48件 (26%)
臍帯因子 30件 (16%)
子宮破裂 6件 (3%)
感染 5件 (3%)
胎児母体間輸血症候群 5件 (3%)
複数原因の関与 39件 (21%)
原因不明または特定困難 43件 (23%)
テーマに沿った分析
日常の産科医療で教訓となる情報を提供するという視点で、「臍帯脱出」「常位胎盤早期剥離」「子宮収縮薬」「新生児蘇生」「分娩中の胎児心拍数聴取」の5テーマが選定され、分析がなされています。
臍帯脱出
・188件中、臍帯脱出を発症した事例は12件(6.4%)。臍帯脱出は、起こると急激に児の状態が悪化するとされています。
・12件中、メトロイリンテルが使用された事例は5件(41.7%)、人工破膜が実施された事例は6件(50.0%)。メトロイリンテルの使用や人工破膜と臍帯脱出との関連を念頭に置いて、それら使用・実施にあたっての注意事項が提言されています。
常位胎盤早期剥離
・188件中、常位胎盤早期剥離を発症した事例は59件(31.4%)。常位胎盤早期剥離は、児死亡に至ることや脳性麻痺を発症することがある重篤な疾患だとされています。
・59件中、切迫早産が20件(33.9%)、危険因子のいずれにも該当しない事例が33件(55.9%)。
・切迫早産と診断された事例20件すべてにリトドリン塩酸塩が処方されていたとのことです。常位胎盤早期剥離と切迫早産との慎重な鑑別診断などが提言されています。
・常位胎盤早期剥離の診断を総合的に行うことや、診断後の対応のあり方についても提言がなされています。
子宮収縮薬
・188件中、分娩誘発・促進目的で子宮収縮薬が使用された事例は56件(29.8%)。子宮収縮薬の投与が脳性麻痺発症の原因の一つとされたり、原因ではないものの要因とされた事例などがあったとされています。
・56件のうち、ガイドライン等の用法・用量などの基準不遵守との指摘があった事例は43件(76.8%)に上っています。
・複数の子宮収縮薬が使用された事例が9件。
・子宮収縮薬の用法・用量を守った適正な使用、複数の子宮収縮薬を投与する場合、初回薬剤投与終了から1時間以上経た後に使用することなどが提言されています。
新生児蘇生
・188件中、気管挿管が行われた事例は138件(73.4%)。このうち再挿管が行われた事例は26件(18.8%)。
・まずバッグ・マスク換気と胸骨圧迫を行い、必要時に気管挿管を行うこと、適切な挿管が困難と判断した場合などは、バッグ・マスクに切り替えること、新生児蘇生法の継続的な学習などが提言されています。
分娩中の胎児心拍数聴取
・188件中、墜落産等により胎児心拍数が確認できなかった事例4件を除き184件で分娩中の胎児心拍数聴取が行われ、そのうち96件(52.2%)で原因分析報告書中に胎児心拍数聴取に関する指摘がなされているとのことです。
・間欠的胎児心拍数聴取、一定時間(20分以上)分娩監視装置を装着する状況、連続的モニタリングを行う状況、胎児心拍数陣痛図を確認する間隔、胎児心拍数聴取の記録のあり方などについて提言がなされています。
提言の活用を!
産科医療補償制度では、補償対象とされた全例について原因分析がなされ、その結果が蓄積されていくことで、将来の脳性麻痺発症の回避に役立つ有益な情報が発信されていっています。このような情報が医療現場などで大いに活かされ、将来の脳性麻痺発症ができる限り回避されることを期待したいと思います。