弁護士松山健(嘱託)(2013年7月センターニュース304号情報センター日誌より)
検討部会とりまとめ
平成25年5月29日の第13回の検討部会は、とりまとめを公表して、終了し、部会の検討の期間中休止していた親会の「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」は活動を再開し、第5回会合が6月20日の開催が予定されています。以下、取りまとめの概要をご紹介します。
1.調査の目的
○ 原因究明及び再発防止を図り、これにより医療の安全と医療の質の向上を図る。
2.調査の対象
○ 診療行為に関連した死亡事例(行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例であり、行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事案の発生を予期しなかったものに限る)
○ 死亡事例以外は、段階的な拡大を検討
3.調査の流れ
○ 医療機関は、診療行為に関連した死亡事例が発生した場合、まずは遺族に十分な説明を行い、第三者機関に届け出るとともに、必要に応じて第三者機関に助言を求めつつ、速やかに院内調査を行い、当該調査結果について第三者機関に報告する(第三者機関から行政機関への報告はしない)
○ 院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第三者機関が調査を行う。
4.院内調査のあり方について
○ 診療行為に関連した死亡事例が発生した場合、医療機関は院内に事故調査委員会を設置する。その際、中立性・透明性・公正性・専門性の観点から、原則として外部の医療の専門家の支援を受けることとし、必要に応じてその他の分野についても外部の支援を求める。
○ 外部からの支援や連絡・調整を行う主体としては、都道府県医師会、医療関係団体、大学病院、学術団体等を「支援法人・組織」として予め登録する仕組みを設ける。
○ 診療行為に関連した死亡事例が発生した場合、医療機関は、遺族に対し、調査の方法(実施体制、解剖や死亡時画像診断の手続き等)を記載した書面を交付するとともに、死体の保存(遺族が拒否した場合を除く)、関係書類等の保管を行う。
○ 院内調査の報告書は、遺族に十分説明の上、開示する(調査の実施費用は医療機関の負担)。
○ 上記の院内事故調査の手順は、第三者機関への届出を含め、厚労省でガイドラインを策定する。
5.第三者機関のあり方について
○ 独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する民間組織を設置する。
○ 第三者機関の業務
1)院内調査の方法等に係る助言
2)院内調査結果の報告書に係る確認・検証・分析
3)遺族又は医療機関からの求めに応じて行う医療事故に係る調査
4)医療事故の再発防止策に係る普及・啓発
5)支援法人・組織や医療機関において事故調査等に携わる者への研修
○第三者機関は、全国に一機関とし、案件ごとに各都道府県の「支援法人・組織」と一体となって調査を実施(なお、この調査は、既に院内調査に関与した支援法人・組織と重複しないよう配慮)。
○医療機関が第三者機関の調査に協力せず調査ができない状況が生じた場合、その旨を報告書に記載し、公表する。
○第三者機関の調査報告書は遺族及び医療機関に交付する。
○第三者機関が実施する調査の費用については、学会・医療関係団体からの負担金や国からの補助金に加え、調査申請者(遺族や医療機関)にも負担を求める(申請を妨げることとならないよう配慮しつつ負担のあり方を検討)。
○第三者機関からの警察への通報は行わない(従前通り、医師法第21条に基づく) 。
まとめ
2.調査の対象につき、「予期」の判断は当該医療機関の解釈・判断に任される点、
3.調査の流れにつき、院内調査を飛ばして第三者機関が調査するルートは封じられるのか明確でない点、
4.院内調査につき、原則的な外部委員が医療専門家に限定される点、「支援法人・組織」には都道府県の医師会等の地元組織を含み、支援組織等への丸投げ体質を生む素地となるリスクがあり、地元のことを地元でということになれば、公正らしさへの懸念が残る点、
5.第三者機関のあり方につき、全国一機関とし、広域地方単位の支部を設けずに案件ごとに都道府県単位の「支援法人」等と「一体となって調査」する体制は、受け身かつ丸投げ体制のリスクばかりか、事故情報や個別調査の管理について実効的な機能を発揮することへの妨げとなり得る点
等々諸々課題もありますが、新たな制度を創設するに際しては課題がない方がむしろ不自然です。まずは今後、秋の臨時国会での医療法の一部改正までの間(その後は、厚労省のガイドライン策定について)、よりよい制度となるよう、必要な範囲で提言を行いつつ、成り行きを見守って行く必要があります。