弁護士松山健(嘱託)(2014年5月センターニュース314号情報センター日誌より)
提 言
平成26年3月25日、日本医療安全調査機構は、第3回運営委員会で、「医療事故の原因究明・再発防止に係わる医療事故調査制度の策定に向けて―法制化されるにあたっての提言―」(同機構の推進委員会と理事会の連名)を公表しました。
法制化への提言の中から「調査対象事例の基本的考え方」をご紹介します。
調査対象事例の基本的な考え方
調査対象事例は、厚労省検討部会とりまとめ「診療行為に関連した死亡事例(行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例であり、行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事案の発生を予期しなかったものに限る)」の定義を基本とするとします。
もっとも、一つの定義で、全てを包括することには限界があり、(説明さえしておけば、予期していたとして除外されるというのはおかしい等)合併症の取り扱い等について検討を要するとします。
・客観的基準策定の考慮因子
そして、検討の上で、いずれは医療事故と判定するための「客観的基準」の策定は必要であり、その際の考慮因子としては、
1)「Claim Oriented」(主張志向)でなく「Event Oriented」(事例志向)を基本とする
2)当事者、管理者を除き、院内の臨床経験を有する医師が(可能ならば合議の上で)決定する
3)地域・ブロック内の事故調査の経験を有するアドバイザー医師と相談できる体制を作る
とします。
・法案の問題点
この点、病院等の管理者が医療事故調査・支援センターに報告すべき医療事故を定義する法案(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案)第6条の10「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるものをいう」について、(検討部会のとりまとめでは触れられていなかった)「予期」の主体として「当該管理者が」と入れられ、管理者が予期していたと「主張」すれば、報告対象から外れかねない規定ぶりが問題点として指摘されています。
本提言の1)事例本位で、2)当事者・管理者以外の院内の医師を主体とし、3)相談体制を整備するという因子は、国会審議においても、ぜひ考慮されるべき視点といえるでしょう。
まとめ
提言は、「日本医療安全調査機構は、厚労省によって行われた『検討部会』の提言およびそれに基づく今後の法制化を基本的に歓迎する。その際、この機構自体を発展的に解体・再編し、新しい医療事故調査制度の中で重要な役割を担う用意がある。それこそが、これまでの8年に及ぶ医療事故調査の蓄積と、それに関係した多数の専門家の努力と経験を活かす道だと信じている」(1頁)、
「『独立性・中立性・透明性・公正性・専門性』を有する民間の『第三者機関』(医療事故調査・支援センター[仮称])」として「日本医療安全調査機構は、医療系学会の大多数が参加し、医師会、病院団体、看護協会など、医療団体が加入する機関として存在しており、このような職責を担う資格があると自負している」(3頁)と明記し、新制度で重要な役割を担う意向を表明しています。機構のホームページでPDF版をダウンロードできます。12頁と簡潔にまとめられていますので、ご一読いただければと思います。