管理者任せで大丈夫?~医療事故調査に関する法案、審議入り

弁護士園田理(常任理事)(2014年6月センターニュース315号情報センター日誌より)

医療事故調査に関する法案、審議入り

 医療事故調査の仕組みを法令で定める法案(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案)の審議が国会で進められています(本稿執筆時点では衆議院で可決され、参議院で審議中)。
 直近の審議の様子はインターネット審議中継のビデオライブラリで確認することができます。

衆議院厚生労働委員会での審議状況

 衆議院厚生労働委員会で、井坂委員が、法案のうち医療事故調査の仕組みに関する部分を取り上げて質問し、厚労大臣や厚労省医政局長が以下のように答弁しています(以下は、筆者において質疑応答の趣旨を適宜要約)。
◆4月25日
Q 意識不明の重体や重度障害が調査対象に含められていない理由は?
(局長)全医療機関を対象にした制度であるため、まずは死亡・死産を対象に。
Q 平成20年大綱案と同様、患者遺族の依頼で調査が始まる仕組みが必要では?
(大臣)本制度目的は紛争解決ではなく医療事故の原因究明と再発防止。調査結果を遺族に説明した結果一定程度理解いただけることはあっても、それは副次的。
Q 遺族が調査依頼できないというのは、法案ではどこに書かれている?
(局長)「医療事故」は、医療機関の管理者が当該死亡・死産を予期しなかったものという定義。まず、管理者が「医療事故」と認識し報告するところから始まる。遺族が第三者機関に調査依頼できるのも「医療事故」であることが前提。
Q 医療機関内の内部告発で調査が始まる仕組みも必要では?
(局長)医療機関内での「医療事故」決定プロセスのあり方は今後定めるガイドラインの中で検討していきたい。
Q 大綱案では死亡診断医師の管理者への事故報告義務を定めていたのに、本法案にそのような規定がないのはなぜ?
(大臣)大綱案には紛争解決、責任追及という意味合いもあった。しかし、本法案では原因究明・再発防止のみが目的。大綱案とは目的などが変わっている。
Q 現場の医師に報告義務が法定されていないと、隠蔽や責任逃れが起こるのでは?
(大臣)「医療事故」の基準については、ガイドラインを示し、研修も行う予定。医療機関にはきちんと報告していただける。
Q 大綱案同様、第三者機関への報告をもって、医師法21条の届出とみなすというルールにすべきでは?
(大臣)本法案は医師法21条には一切触れていない。触れると関係者の意見が集約できない。法案の付則2条で、今後見直し、検討がなされる。
Q 第三者機関を民間組織としたのはなぜ?
(局長)責任追及とは切り離したため。第三者機関から警察や行政への通報は行わない。
Q 責任の所在を決めるのはどうなるか?
(局長)付則に見直し規定が入っており、検討を続けていきたい。
◆5月9日
Q 調査結果の説明・報告を受けた遺族が訴訟を起こす可能性は?
(大臣)紛争解決が制度目的ではないが、訴訟の中でどう使われるかは司法の判断で。訴訟での使用は排除されない。
Q 報告書中に再発防止策が書かれていると、訴訟で問題ありと判断されかねない。再発防止策は記載されるのか?
(局長)原因がどうであったかは記載することになるが、詳細はガイドラインの中で定める。
Q 報告書に行政処分の対象となるような記載ある場合は?
(局長)調査結果の司法当局や行政機関への報告はない。調査結果を基に行政処分を行うことは想定できない。
Q 原因究明・再発防止のための調査と責任追及のためのそれとを切り分けるべきでは?
(大臣)本制度は、責任追及、紛争解決のためのものではない。ただ、結果として遺族の方が納得されることもある。報告書の内容は、訴訟で使われうることに配慮しながら、ガイドラインで詳細はこれから定める。
Q 訴訟に至る前に医療機関と患者遺族との紛争解決を対話型で行う仕組みを設けるべきでは?
(大臣)制度目的に紛争解決はなく、仕組みの中に入れるわけにはいかない。
Q 遺族発議で賠償や補償がなされる制度が別途必要では?
(大臣)過去議論がなされて来たが、補償の範囲や財源の問題で、結論を得ることができなかった。当面は本医療事故調査制度を実施し、その状況を踏まえて検討していく。

管理者任せで大丈夫?

 法案では、管理者が「医療事故」と認識し第三者機関に報告しなければ調査が開始されず、患者遺族からは調査依頼できないとされています。制度目的が原因究明・再発防止だからとのことです。
 しかし、医療機関の管理者任せでは、本来原因究明・再発防止されるべき事故で報告されずに埋もれてしまうものが出て来ないでしょうか。患者遺族からも調査依頼できるようにした方がより制度目的に適うのではないでしょうか。疑問が残るところです。