弁護士松山健(嘱託) (2015年6月センターニュース327号情報センター日誌より)
省令等公表される
厚生労働省は平成27年3月に省令、通知に関する原案をまとめ、3月23日から4月21日までパブリックコメント(以下「パブコメ」)を募集していましたが、平成27年5月8日、医療法施行規則の一部を改正する省令「厚生労働省令第百号」が公布され、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について通知が発出されるとともに、「医療法施行規則の一部を改正する省令案」に対する意見募集の結果が公表されました(日本医療安全調査機構HPで「医療事故調査制度関連資料」としてまとめて掲載されていますのでご覧いただければと思います)。
パブコメの意見
公表資料では、寄せられた151件の意見等のうち、同趣旨のものを適宜要約した43項目についての意見概要と、それに対する厚労省の回答が記載されています。紙面の関係上、以下、一部の意見のみを抜粋してご紹介します(番号は意見概要に付された番号です)。
1 遺族からセンターに、医療事故の報告(相談)をできるようにすること。医療機関が報告しない事案でも、遺族がセンターに調査を依頼できるようにすること。
2 調査対象は、管理者と医療事故に関わった双方が予期しなかった場合とすること。
3 病院職員が匿名で内部告発が出来る外部組織を別に設け、その組織から管理者に医療事故の調査を行うよう命令することができるようにするなど、勤務医のための相談先又は内部告発先を設置すること。
4 死亡又は死産だけでなく、重度障害の案件を対象とすること。
6 誤薬投与などの単純過誤事例は本制度の対象外とすること。
7 胎内死亡は対象外とすること。
8 省令案第1条の10の2第1項について、第1号、第3号の「当該死亡又は死産」とは、当該時期の当該原因及び機序による死亡又は死産とし、第1号、第3号の「予期」とは、当該患者の臨床状況を踏まえた具体的な予期とすること。
9 省令案第1条の10の2第1項第3号はどのようなものでも「予期していた」と定義できるので、削除するか又は家族に対する説明もカルテ等への記載もできない特段の事情のある場合に限定すること。
13 法第6条の10の「遅滞なく」は48時間以内を目途とすること。
17 医療事故調査委員会の透明性・公平性・中立性を確保するため、構成を明確化すること。(・委員の過半数は外部委員とする・外部委員に遺族側の委員を入れる・当該医療機関の管理者や当該医療事故に関与した医療従事者は委員としない)
18 医療事故調査等支援団体の機能に医療機関、患者遺族、現場医療従事者の意見調整を行うADRの機能を付与すること。
21 院内調査後に医療事故に該当しないと明らかになったときの対応はどうするのか。その場合、遺族はセンターに調査を依頼できるのか。
24 医療機関が行う医療事故調査の報告書を遺族に渡すこと。
25 医療機関が行う医療事故調査の報告書は遺族に渡さないこと。
26 院内調査、センター調査ともに、報告書を訴訟の証拠としてはならない旨の規定を設けること。
30 省令案第1条の10の4第1項に、・医療従事者からの事情聴取は必須であること・医療従事者には黙秘権があること・事情聴取の際は立会人を認めることを規定すること。
31 院内調査項目を定める省令案第1条の10の4第1項に、「遺族からの事情の聴取」を加えること。
33 調査項目については管理者による選択ではなく、すべて事項について行うことを原則とすること。(必要がない項目については調査対象とせず、その場合は報告書に調査対象としなかった理由を記載すること)
34 法第6条の16に規定される「整理及び分析」については、個別事例の分析・検証を行うこと。
35 医療機関の管理者だけでなく、現場の医療従事者もセンターへの調査依頼をできるようにすること。
36 センター調査の結果について、医療機関が異議申し立てできる旨の規定と一事不再理に類するような規定を設けること。
37 センターの指定基準のうち、「専門的知識又は識見を有する委員により構成される委員会を有すること」を、「専門的知識を有する委員及び法的知識を有する委員」とすること。
38 センターの指定基準のうち、「専門的知識又は識見を有する委員により構成される委員会を有すること」を、「医療安全学及び現場医療の専門的知識を有する委員」とすること。
40 センターの指定基準として、役員の構成について、医療安全学、ヒューマン・ファクター工学者などを一定の割合で入れること。
41 センターの帳簿保存について、再発防止策の検討を行う観点から、保存期間を最低10年、可能であれば15年とすること。保存対象となる帳簿に、医療機関及びセンターが行った医療事故調査の報告書そのものを加えること。
まとめ
原案と比べて公布された省令は、内容的に基本的には変更はなく、一部字句の追加変更がされたにとどまりました。省令・通知では具体的な院内調査の指針は示されず、医療現場としては、具体的な手順について、病院団体などが示すガイドラインやマニュアルに頼らざるを得ず、ガイドラインが乱立し医療現場での混乱や調査の質のバラつきが生じかねない懸念があり、今後の成り行きをしっかり見守っていく必要があります。