弁護士園田理(常任理事) (2015年7月センターニュース328号情報センター日誌より)
支援団体へ向けての医師会の動向
昨年6月の医療法改正で創設され、本年10月から施行予定の医療事故調査制度では、医療事故調査を行う医療機関は、医学医術に関する学術団体その他の厚労大臣所定の団体(「医療事故調査等支援団体」。以下単に「支援団体」)に必要な支援を求めるものとされています。
日本医師会(日医)は、医療事故調査制度創設を受け、昨年10月、会内の医療安全対策委員会に、同制度で医師会が果たすべき役割を諮問していましたが、本年4月、同委員会は、「都道府県医師会は、医療事故調査制度施行時から、支援団体として中核的な役割を果たすべき」などとする中間答申を出しました(http://www.med.or.jp/shirokuma/no1882.html)。
この中間答申を受け、日医は、去る5月29日、都道府県医師会の医療事故調査制度担当理事を集め連絡協議会を初めて開催し、各都道府県医師会に、医療事故調査制度の各地域での要としての役割を担って欲しいと要望し、上記中間答申の内容等を説明するなどしました(http://www.med.or.jp/nichinews/n270620d.html)。次いで、去る6月12日、47都道府県医師会とともに、厚労省に、支援団体になるための申し出を一括して行いました(http://www.med.or.jp/shirokuma/no1891.html)。
支援団体の中立性が確保される仕組みの必要性
医療事故調査制度において、支援団体は、医療機関が行う医療事故調査に対し、支援を通じて大きな影響を及ぼしうる立場にあります。そのため、立法の際、参議院で、支援団体の「中立性・専門性が確保される仕組みの検討を行うこと」が附帯決議されていました。
ところが、昨年11月に設置された厚労省検討会(医療事故調査制度の施行に係る検討会)での配布資料では、支援団体の案として、日医、都道府県医師会を始め、医療事故に関する損害賠償責任保険の運営に関わっている団体が複数含まれていました。そのような団体は、医療事故に関する損害賠償責任の有無に利害関係を有しており、中立公正な立場から医療事故調査の支援に当たることができないおそれがあります。
当センターは、本年1月30日付け意見書(医療事故調査制度の施行に係る意見書)の中で、厚労大臣が支援団体と定めるには、その団体に公正性・中立性・透明性の確保された支援を行いうるだけの体制が具備されていることが必要で、その団体内に設置される医療事故調査を支援するための委員会組織と、損害賠償責任保険の運営組織との間には、明確な独立性が確保されていることを要するべきだ、との意見を述べました。
しかし、本年5月8日に出された医療事故調査制度に関する省令通知では、当センターが述べたような、支援団体の「中立性が確保される仕組み」(参議院附帯決議)、支援のための組織と保険運営組織との独立性といった点について、何ら定めがなされませんでした。
そのような中、冒頭に述べたとおり、各種損害賠償責任保険の中でも特に重要な位置を占める日医医師損害賠償責任保険の運営に関わる日医や都道府県医師会が、医療事故調査制度の支援団体に定められるべく動きを加速させています。
懸念が残る日医の中間答申
日医医療安全対策委員会の前記中間答申では、
「都道府県医師会に、近隣の…基幹病院の専門医、学会・医会等の推薦委員、日本医療安全調査機構の登録専門評価委員等を加えて、第三者性を備えた都道府県医師会担当組織として『○○県医療事故調査制度対応支援委員会(仮称)』を常設すべき」
「都道府県医師会の事務局担当組織は、医賠責担当組織とは別組織として医療事故調査制度担当組織(医療安全対策課等)を設置するのが望ましい」と中立性・独立性に一定配慮がなされてはいますが、
「ただし、制度施行当初は業務量も明確でなく、他に医療事故調査制度に精通している職員がいない場合など、それぞれの都道府県医師会の実情を勘案し、当面は、柔軟な対応も可能と思われる」
と、「中立性が確保される仕組み」が徹底されていませんでした。果たして中立公正な支援が確保されるのか、懸念が残ります。
今後の答申内容にも要注目
日医医療安全対策委員会では、今後さらに
・院内調査の標準的な手法、体制と支援の具体的あり方
・院内調査報告書の作成のあり方
・医療事故調査に関する専門的知識、技能を備えた人材の育成
などを検討していくとされています。いずれも医療事故調査の実際の運用に当たり重要な点で、実務に大きな影響を与えていくと予想されます。今後の答申内容も注目していく必要があります。