弁護士松山健(嘱託) (2015年10月センターニュース331号情報センター日誌より)
全日病指針
公益社団法人全日本病院協会(「全日病」)は、平成27年8月24日、「医療事故調査制度に係る指針」を公表しました(本文19頁。全日病HPで入手できます)。
「制度対応のすべてを簡便かつ容易に分かるように」まとめられたもので、綱領的な体裁となっており、詳細は「院内医療事故調査の指針 第2版」(メディカ出版、飯田 修平編著、「医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究」グループ著)に譲るとします。
極めて簡潔にまとめられていますが、医療現場が初動の段階で直面する「医療事故」の定義、事故発生直後、発生後24時間以内の対応、院内事故調査委員会の開催時期や頻度(初回は事故発生後1週間以内、月1回から2回の頻度とします)等については具体的な記載がなされています。
院内事故調査委員会の構成については、公正性・透明性担保のため、原則的に外部委員を招聘し、病院長は委員会に参加しないとします(19頁)。
日医答申
他方、日本医師会(「日医」)は、平成27年9月2日、医療安全対策委員会 第2次中間答申「医療事故調査制度における医師会の役割についてⅡ~院内事故調査の手順と医師会による支援の実際~」(本文部分17頁、巻末資料「医療事故発生時の調査の流れ」資料1~7部分33頁。日医HPで入手できます)を公表しました。
(第1次中間答申)
医療安全対策委員会は、今年4月の第1次中間答申「医療事故調査制度における医師会の役割について」を公表していました。同答申は、綱領的な内容で、都道府県医師会が支援団体として中核的な役割を担い、具体的に果たすべき役割として、相談窓口としての機能、院内事故調査委員会の支援、院内事故調査結果の「第三者機関(センター)」への報告の支援、遺族への説明の支援等を挙げ、準備事項として、地域での医療事故調査に活用できる資源の把握と連携関係の構築、医師会内での人材育成及び体制整備、会員、地域住民への周知、常設の医療事故調査制度支援組織の創設、各ブロックにおける広域的取組、「第三者機関(センター)」との連携・協力等を挙げ、今後の重点的な検討課題として次の3項目を挙げていました。
①院内調査の標準的な手法、体制と支援の具体的あり方
②院内調査報告書の作成のあり方
③医療事故調査に関する専門的知識、技能を備えた人材の育成
(第2次中間答申)
今回公表された第2次中間答申は、①と②に関するもので、「具体的なマニュアルとなるもの」(3頁)として作成されており、特に、「3 院内事故調査のあり方」は、医療事故調査・支援センターに報告を要する「医療事故」該当性の判断から、院内事故調査報告書の作成までの流れにおいて、プロセス毎に、「a 医療機関が行うこと」と「b
支援団体が行うこと」に分けて、時系列的に整理して記載されています。
院内事故調査委員会の構成に関しては、「委員長や主領域の専門委員は外部委員が望ましい」(12頁)とします。
巻末資料として、経皮的冠動脈形成術(PCI)施行中の急変後死亡事案例について、(1)医療安全管理委員会報告書、(2)遺族との面談、(3)病理解剖所見、(4)臨床経過一覧表、(5)論点整理、(6)当該病院の意見、(7)院内事故調査報告書の例が示されています。
広範囲に指定された支援団体
さて、センターの指定に先立ち、本年8月6日付で、医療事故調査等支援団体が告示されました(平成27年8月6日付厚生労働省告示第343号)。支援団体は、個別医療機関からの要請に応じて院内調査を支援することが予定されており、厚労省が定めるとされています。
新たな制度が院内事故調査を主体とした制度設計とされたことから、支援団体による調査支援のありようによって、院内事故調査の公正性・透明性・中立性・専門性が大きく左右されるだろうと予想されますが、今回の告示では、日本医師会・都道府県医師会等の職能団体、各種病院団体とその会員病院、各種学会等が極めて広範に支援団体に指定されています。個別の病院名は列記されていませんが、いくつかの病院団体については、会員病院も一律に支援団体に指定されており、非常に小規模な病院も含む形で支援団体が定められたものと理解されます。例えば、「日本病院会及びその会員が代表者である病院」が支援団体として告示されていますが、その会員病院数は愛知県下だけでも100を越えています。
まとめ
いよいよ医療事故調査制度がスタートします。
厚労省からは詳細なガイドラインという形式では具体的なマニュアルが示されていないため、現場での混乱も予想されるところ、これらの指針・答申が、実務上、運用基準として参考にされながら、試行錯誤の内に制度は進んでいくものと思われます。
今後は、実例の集積を待って、公布後2年以内(平成28年6月まで)の医療事故調査制度の見直し(医療法附則第2条)に改善点を反映すべく実際の運用実態を見守っていくことが重要です。