特定機能病院、承認要件見直しへ

弁護士松山健(嘱託) (2016年2月センターニュース335号情報センター日誌より)

検討会

厚生労働省の「特定機能病院及び地域医療支援病院の在り方に関する検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第10回会合(第1回は、平成24年3月15日)が平成27年12月18日に開かれ、特定機能病院の承認要件の見直しについての議論がなされました。

背景

 東京女子医科大学病院や群馬大学医学部附属病院の問題を受けて塩崎厚労大臣を本部長として平成27年4月に設置された「大学病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」が同年6月から3カ月、全84の特定機能病院に対して集中検査を実施し、その結果と対応についての報告書(「特定機能病院に対する集中検査の結果及び当該結果を踏まえた対応について」)が11月5日付で取りまとめられ、この報告を基に、検討会が具体的な要件を検討するという流れとなっています。検討会は、平成28年1月下旬をめどに取りまとめ、2~3月にパブリック・コメントを募集し、4月には、新しい承認基準を示した省令や通知が出される予定です。

見直し案

  厚労省の特定機能病院のガバナンスの確保・医療安全体制に関する見直し案の骨子は、次の表の通りです。
1 医療安全管理責任者の配置
2 医療安全管理部門の体制強化(医師・薬剤師・看護師の専従原則化)
3 事故を防ぐ体制の確保(医療安全に資する診療内容のモニタリング等)
4 インシデント・アクシデント等の報告(全死亡例と一定基準以上の有害事象の報告)
5 内部通報窓口の設置
6 医薬品安全管理について(医薬品情報の整理と周知、適応外・禁忌等の処方に係る確認及び指導)
7 管理者における医療安全管理経験の要件化、医療安全責任者等によるマネジメント層向け研修の受講
8 監査委員会による外部監査
9 特定機能病院間相互のピアレビュー

死亡事例以外にも「一定基準」の有害事象を報告

 多項目に亘りますが、本稿では4のインシデント・アクシデント等の報告に関する見直し案をご紹介します。
(ア)死亡例は全例報告
 死亡事例は、全例を医療安全管理部門へ報告し、医療安全管理部門は、その内容を管理者へ速やかに報告するものとし、医療安全管理部門及び医療安全管理委員会は、必要な検証等を行い、その結果についても管理者へ報告するとします。
 新たに省令に追加する管理者の責務としては、①「入院患者が死亡した場合」、速やかに、職員に「死亡の事実及び死亡前の状況」を医療安全管理部門に報告させるとの骨子案が示されています。
(イ)死亡以外の事例の報告
 死亡以外の事例については、厚生労働省が基本的な考え方を示し、各特定機能病院は、その考え方を踏まえて基準(例えば、「軽微ではない処置等が必要になるレベル」等)を設定し、この基準に該当する事例を認識した全職員が報告するものとします。
 新たに省令に追加する管理者の責務としては、②「死亡以外の場合であって、通常の経過では必要がない処置又は治療が必要になったものとして特定機能病院の管理者が定める水準以上の事象が発生した場合」には、速やかに職員に「事象の発生の事実及び事象の発生前の状況」を医療安全管理部門に報告させるとの骨子案が示されています。
 なお、「通常の経過では必要がない処置又は治療」には、軽微な処置や治療(入院日数が延長する等の影響がない処置や治療)は含まないこととし、また、報告対象となる事象については、行った医療等に起因するか及び当該事例を予期していたかは問わず対象とするものとします。
(ウ)報告状況の確認と指導
 (ア)及び(イ)の取組が適切になされているか医療安全管理責任者等が定期的に確認し、結果を管理者に報告し、不十分な場合は報告が適切になされるよう研修・指導等を行い、医療安全管理委員会は、職員から医療安全管理部門への①及び②の報告が適切に実施されているかを確認し、結果を管理者に報告し、報告が不十分な場合は報告が適切になされるよう研修・指導等を行うものとします。

まとめ

 今回の見直しは、特定機能病院に関するものですが、医療事故調査制度の運用と切り離して考えるのではなく、特に4のインシデント・アクシデント報告については、特定機能病院での取り組みの成果が今後の医療事故調査制度の運用に反映・還元されることが求められます。
 今後も紆余曲折はあるはずですが、こうした思いの下で、医療安全文化が更に育っていくことを期待したいです。