事故調査制度開始から半年~遺族代理人としての関わり方の方向性

堀 康司(常任理事) (2016年5月センターニュース338号情報センター日誌より)

半年で報告188件

 昨年10月に医療法上の制度としての死亡医療事故の報告と調査が開始されてから、半年が経過しました。日本医療安全調査機構は、本年3月末までの報告数は188件であることを公表しました。毎月平均で30件台と、依然として当初の想定よりも低調な状況が続いており、水面下で報告されない事例が眠っている可能性が高いようです。
 他方、調査が開始された事例に遺族代理人として対応する機会も徐々に増えてきましたので、これまでに集まってきた情報から、調査が始まる段階での遺族代理人の関わり方の方向性について考えてみたいと思います。

解剖の実施に向けて

 複数の医療機関が関与したこと等を要因として、死因が臨床的に判然としないにも関わらず、解剖が行われないままとなった事例が出てきています。この制度の前身となった診療関連死因調査モデル事業では、病理医と法医による共同の解剖が原則的に行われていましたので、医療関係者の中からも、モデル事業時代と比較して、調査の基礎とされるべき情報の質の低下を危惧する声が聞こえてきています。
 遺族代理人として関与を開始するタイミングでは、すでに解剖の機会が失われていることは少なくないと思われますが、少なくともその後の調査において、必要な解剖が実施されなかった要因を分析して体制を改善するよう要請することが大切だろうと思います。

 

 

院内事故調査委員会の位置づけの確認

 院内事故調査委員会の設置や運営が場当たり的なものとならないようにするためには、あらかじめ各医療機関に設置規程が整備され、委員会の責務や目的が明確化されていることが重要です。しかし、現実には、こうした準則となるべき規程の整備が間に合っていない医療機関もあるようです。
 遺族代理人としては、医療機関から調査を行うと説明された時点で、院内事故調査委員会がどのような院内の準則に則って運営されるのかを確認し、不十分であると考えられる場合には、適切な規程を早期に策定するように求めていく必要があります。その際には、日本病院会作成の「院内事故調査の手引き」の推奨事項(p4等)が参考となると思われます。

遺族側からの情報提供

 病室や自宅で患者に付き添っていた家族は患者の病状を注意深く見守っています。病状が悪化する様を家族がどう認識していたかについて、委員会に情報提供することは質の高い調査を実現する上で大切なポイントとなります。特に外来受診時の不作為型事故等では、帰宅後の患者の病状は診療録に記載されていませんので、こうした作業はとりわけ重要となります。
 遺族代理人としては、診療録の開示を受け、その記載内容の正確性を遺族に確認するとともに、医療機関側が病状を認識しえない時間帯において家族が認知した状況を丁寧に聴取した上で、委員会に遺族ヒアリングの実施を要請して、遺族から委員会に対して適切に情報を提供されるよう務めることが望まれます。遺族ヒアリングの円滑な実施のためには、遺族からの聴取結果を整理した資料(陳述書等)を作成して予め提供するといった実務的工夫も重ねていくとよいと思われます。

よい調査制度が根付くように

 調査の手順や手法については各医療機関内でも試行錯誤が続いています。よき報告文化、よき調査文化が定着するよう、遺族代理人としても、経験交流を重ねながら、医療機関に対して様々な角度から適切な働きかけを行っていくことが大切であると感じています。