園田 理(常任理事) (2016年7月センターニュース340号情報センター日誌より)
医療事故調査制度の省令改正へ
昨年10月から施行されている医療事故調査制度では、公式なガイドラインや指針等が存在しません。医療事故調査を行う医療機関に必要な支援を行う支援団体の病院団体等は、それぞれ独自にガイドライン等を出しています。いわばガイドライン乱立の状況にあります。そのような状況が医療現場で混乱を招いているとの指摘もあります。厚労大臣も本年4月の記者会見で、乱立したガイドライン相互の整合性がどうかにも留意しながら制度の定着と適切な運営を図っていきたい旨述べていました。
そのような中、先月号の本欄でご紹介したとおり、支援団体の協議会設置等の動きが報じられていました。そして、そのような動きが具体化・現実化したものとして、6月9日に、自民党政務調査会の医療事故調査制度の見直し等に関するワーキングチームが、「医療事故調査制度等に関する見直しについて」と題する文書を公表、社会保障審議会医療部会で参考資料として配布されるとともに、それを踏まえた運用改善措置の予定が報告され、それを受け、厚労省が、医療法施行規則の一部を改正する省令案をパブリックコメントに付しました。
自民党の提言内容
自民党が上記文書の中で、現行の医療事故調査制度を前提とした当面の運用改善点として提言したのは、以下の5点でした。
①支援団体や調査・支援センターの情報・意見交換の場として支援団体等連絡協議会(仮称)を制度的に位置付ける。これにより、地域間や支援団体間で医療事故該当性判断や院内調査の方法等の標準化を進める。
②医療機関の管理者が、院内死亡事例を遺漏なく把握できる体制を確保すべきことを明確化する。
③調査・支援センターは、遺族等から相談があった場合、医療安全支援センターを紹介するほか、遺族等からの求めに応じて相談内容等を医療機関に伝達することを明確化する。これにより遺族等からの相談に対する対応の改善を図り、当該相談を医療機関が行う院内調査等の重要な資料としうるようにする。
④支援団体や医療機関に対する研修の充実、優良事例の共有を行う。
⑤医療機関の同意を得て、必要に応じて、調査・支援センターから院内調査報告書の内容に関する確認・照会等を行うことを明確化する。これにより、院内調査報告書の分析等に基づく再発防止策検討に活かす。
省令改正案の内容
この自民党提言の①②に対応した形で、厚労省は、次の2点を内容とする医療法施行規則改正案をパブリックコメントに付しました。
①支援団体は、支援を行うに当たり必要な対策を推進するため、共同で協議会を組織することができる。協議会は、医療機関の管理者による調査・支援センターへの事故報告状況や医療事故調査の状況、支援団体の支援状況に関する情報共有や必要な意見交換を行う。その上で、協議会は、研修を実施し、医療機関の管理者に支援団体の紹介を行う。
②医療機関における死亡・死産の確実な把握のための体制確保を医療機関の管理者が行うことを明確化する。
今回の医療法施行規則の改正は、医療事故調査制度を設けた医療法改正法の附則の規定に基づいて、同法の公布から2年以内に行われる必要措置としてなされるものとのこと。パブリックコメントの受付期間も1週間と短く、6月24日までには省令改正が実施されるようです。
適正な標準化を
ガイドラインの乱立等により、地域間や支援団体間で医療事故該当性判断や院内調査の方法等にばらつきがあるのは好ましくありません。支援団体の協議会が組織され、制度運用の標準化が進められるのは評価すべきことです。
ただ、省令改正案からは、この支援団体の協議会が都道府県の枠組みを超えた、例えば厚労省の地方厚生局管轄地域のような広域で組織されるのか、調査・支援センターが協議会に参加し協議に加わるのか、不明です。都道府県単位で協議会が組織され、調査・支援センターの参加もないと、地域間のばらつきが解消されないばかりか、影響力ある特定の支援団体によっていわば悪しき標準化がなされてしまうおそれもあるのではないかとの懸念も残ります。そのような懸念を払拭させるためにも協議会は公正、中立な運営が確保される必要があり、議事録の公表や患者遺族、患者側弁護士等の参加にも配慮がなされるべきです。
今後協議会がどのように組織され運営されていくのか、そして医療事故報告状況等がどう推移していくのか、注目していきたいと思います。