堀 康司(常任理事) (2016年9月センターニュース342号情報センター日誌より)
機構が6ヶ月分の概況を報告
本年7月、日本医療安全調査機構は今年度の第1回医療事故調査・支援事業運営委員会を開催しました。この席上で『医療事故報告等に関する報告書-制度開始6ヶ月の動向-』が配付され、制度開始から半年間の医療事故の報告と調査結果に関する分析結果が明らかにされています。
この報告書から調査制度の初動の状況について読み解いてみたいと思います。
報告推奨を助言されたのに・・・
同機構の運営する医療事故調査・支援センターでは、医療機関から医療事故として報告を要するかどうかの相談を受け付け、同センター内での合議に基づく助言を行っています。半年間で51件の合議が実施され、19件について報告を推奨するとの助言が行われたところ、15件については実際に報告が行われたようですが、4件については報告の実施が確認されていないようです。また、合議の結果として複数の考え方が伝達された事案21件のうち、実際に報告に至った案件は4件に留まっています。
各医療機関が適切に報告事案を判断しているかどうかを検証する上では、こうした助言事例の具体的内容を詳しく精査することが重要であると考えられます。
解剖・Ai実施率の低さ
制度開始後6ヶ月で49例の院内調査結果が同センターに報告されています。このうち解剖の実施を確認できたものは11例(22.4%)に留まり、解剖不実施を確認できたものが21例(42.9%)に達しています。Ai(オートプシーイメージング)の実施が確認された事例は49例中17例(34.7%。うち4例は解剖も実施)に留まります。半数以上の案件で解剖もAiも実施されていない背景にどのような実情があるのか、さらに掘り下げていく必要がありそうです。
院内調査の実情
報告書から院内調査委員会の設置を確認できた事例は49例中39例(79.6%)であり、委員会方式で調査が実施される例が大半を占めているようです。しかしながら、外部委員の参加を確認できた例は39例中26例で、外部参加人数は1人が最多(10例)である反面、委員総数が11人以上の事例が39例中11例を占めており、中には31人以上という事例も含まれています。事故発生から調査結果報告までの中央値は59日で、1ヶ月未満の事例が49例中12例を占めています。
この数字からは、形としては委員会を開催しているものの、中立性・公正性が確保されないまま、不十分な議論に基づいて結論を出している医療機関が少なからず存在するのでは、と懸念されます。
良き実践の水平展開に期待
残念ながら、制度開始半年の時点の状況は、まだまだ医療安全文化が十分に根付いていないことを推測させるもののようです。ただ、制度開始前の時点では、日本国内の医療事故がどのように取り扱われているのか、全体像を把握する術すらなかったことを考えると、まだまだ不十分であることを知ることができるようになったことは、大きな前進だと思います。引き続き報告状況についての情報が開示され、現場にフィードバックされることによって、良い実践に倣う方向で医療安全文化が醸成されていくことを期待したいです。