柄沢好宣(常任理事) (2016年11月センターニュース344号情報センター日誌より)
はじめに
みなさま、はじめまして。弁護士の柄沢好宣と申します。今月号より、情報センター日誌の執筆を担当させていただくこととなりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
8年ぶりの改訂
本年10月1日に、日本医師会から『医師の職業倫理指針(第3版)』が発行されました。
旧版の『医師の職業倫理指針(改訂版)』が発行されたのが平成20年9月1日ですので、実に8年ぶりの改訂となります(以下、単に「指針」といいます)。
日本医師会のWebサイトを見ますと、第3版発行に向けた改訂作業に着手したのが平成26年6月であったそうです。現行の医療事故調査制度の根拠となる医療法改正が平成26年6月18日のことですので、ちょうど同じタイミングで改訂作業が始まったようです。
医療事故調査制度との関係
指針・第3版には、医療事故調査制度を踏まえた記載が確認できます。
まず、「8.医師と社会」の項「(1)医療事故発生時の対応」の中で、「とりわけ患者が死亡に至った場合、遺族の強い願いは原因究明と再発防止であり、それは医療者の願いでもあることから、死体解剖を行うように勧め、院内事故調査によって原因究明に当たる必要がある。」「なお、そもそも医療とは死亡の検証までも含むものであり、医療事故であるか否かを問わず必要ならば病理解剖をして原因究明に努めるべきである。」との記述が旧版から新たに加えられています。
医療事故調査制度は、病理解剖を前提とした原因究明が基本となることが想定されています。ところが、日本医療安全調査機構作成の「医療事故報告等に関する報告書」では、本年3月末時点で全49件の調査結果報告件数のうち、病理解剖が実施されたものは11件でした。ご遺族の意向等様々な事情があると思いますが、こうした現状を踏まえると、病理解剖による原因究明に努めるべきとしていることは、大いに評価すべきであろうと思われます。
また、同じく「8」の項「(4)異状死体の届出」の中では、医師法21条の異状死届出制度と医療事故調査制度との関係性に言及しています。両制度の関係性をどう理解するかについては、各方面で議論されているところではありますが、少なくとも、診療関連死が疑われる事例については、速やかに医療事故調査・支援センターに対する報告がされた上で、各種専門家や遺族の声が反映される形での事故調査の実現を期待したいところです。
初動が重要
「(1)医療事故発生時の対応」は、旧版では、「5.社会に対する責務」の項(第3版・「8」に対応)の4点目に位置づけられていました。それが、第3版では項目の先頭に位置づけられた上、病理解剖を前提とした原因究明に努めるべきと明示されています。
医療事故により不幸にして患者さんが死亡した場合、病理解剖を前提とした原因究明を行おうと思うと、ご遺体が死後変化による影響を受ける前、あるいは荼毘に付される前に病理解剖を実施に向けて動き出す必要があります。その意味で、医療事故調査制度における事故発生時の初動のあり方は極めて重要です。
今回、指針・第3版でこの点が強調されるに至ったことは、この点を医療界において広く認識していただくよいきっかけになるのではないでしょうか。