松山健(嘱託) (2016年12月センターニュース345号情報センター日誌より)
制度開始1年の動向
一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は、平成28年11月2日、「医療事故報告等に関する報告について―医療事故調査制度開始1年の動向(平成27年10月~平成28年9月)」についてプレスリリースを行いました(機構HPで、要約版と数値版のPDFがダウンロードできます)。以下、概要をご報告します。
相談件数に大きな変化なし
【相談件数】
相談件数は、1年間で1820件、直近3カ月は月平均140件前後で推移しています。
【内訳】
相談の内訳は、医療機関等からの相談が1078件(約59%)で、後半の半年間は月70件台で推移しています。遺族等からの相談は、525件(約29%)で、平成28年6月24日の医政局総務課長通知「遺族等の求めに応じた医療機関への伝達」発出後の7月以降の遺族等からの相談はそれ以前より増加した50件台で推移しています。
【医療機関・支援団体等からの相談内容】
医療機関・支援団体等からの相談内容は、1531件で、内訳は、相談・報告の手続に関するものが500件と最多で、院内事故調査に関するものが475件と続き、医療事故報告対象の判断に関するものが347件、センター調査に関するものが55件と続きます。
【センター合議】
制度の報告対象事例となるか医療機関が迷う具体的事例について、複数名の医師、看護師で合議を行い、判断の視点や院内調査の際に確認が必要と思われる情報を助言する「センター合議」は78件実施され、センター合議により事故報告を奨励したものは34件、複数の考え方があるとしたものは28件、対象とは考えにくいとしたものは16件で、報告奨励事例34件のうち、29件(85.3%)が報告され、複数の考え方を示した28件については7件(25%)が報告され、対象とは考えにくいとしたものについて報告されたものはありませんでした。
【遺族等からの相談】
遺族等からの相談は567件で、報告対象の判断に関するものは406件(約70%)で、その中には、制度開始前の死亡事例や非死亡事例といった明らかな制度対象外のものが286件(約70%)含まれていました。
【遺族等の求めに応じた医療機関への伝達】
平成28年6月24日の医政局総務課長通知に基づく「遺族等の求めに応じた医療機関への伝達」は7件でした。
医療事故報告件数に顕著な傾向見られず
【報告件数】
報告件数は、388件で月別の若干の変動はあるものの直近半年は月平均30件台で推移し未だはっきりとした傾向はみられないと指摘されています。
【地域差の減少】
他方、地域ブロック別の報告件数を人口100万人当たりの報告件数でみると、全体としては概ね3件前後と地域差は減少傾向にあると分析されています。
【患者死亡から事故報告までの期間別報告割合】
患者死亡から事故報告までの期間別報告割合を前半半年と後半半年で比較すると、前半の平均期間21.9日に対して、後半41.2日と、後半のほうが期間が延長している傾向があり、後半は29日以上を要する報告が40%を超えており、この要因についての分析の必要が指摘されています。
院内調査
【結果報告】
院内調査結果報告は、388件中161件行われ、調査に要した期間は、平均118.5日、中央値112日で、6カ月を超えて報告されていない事例が59件あるため平均値は延長が予想されています。進捗が遅れている理由としては、外部委員の選出に時間を要する(7件)、解剖結果が出るまでに時間を要する(4件)、報告書をセンターに提出するという制度の理解が不十分(4件)等の理由が挙げられています。
【解剖の実施】
解剖の実施は、調査結果報告のなされた161例中52件(32.3%)で、前半半年12件(24.5%)、後半40件(35.7%)と増加傾向が認められます。
【Aiの実施】
死亡時画像診断(Ai)の実施は161件中56件(34.8%)で前半17件(34.7%)、後半39件(34.8%)でした。
【外部委員】
外部委員は、委員会を設置した160件中、120件(75%)で、前半30件(61.2%)、後半90件(81.1%)と外部委員の参加の増加傾向が指摘されています。
【再発防止策】再発防止策は161件中142件(88.2%)と記載され、前半43件(87.8%)、後半99件(88.4%)と記載割合に変更は認められませんでした。
センター調査
センター調査は16件で、遺族からの依頼によるものが13件、医療機関からは3件でした。センター調査の依頼時期は、院内調査終了後が11件、終了前が5件でした。
遺族からの依頼理由(複数計上)は、治療に関する調査結果が納得できないが10件、死因について納得できないが7件でした。
まとめ
7月以降の相談件数の増加、センター合議による報告推奨が報告につながっていること、報告件数の地域差の解消傾向、解剖実施件数の増加傾向、外部委員参加事例の増加傾向等、制度の実効化のための改善が少しずつではあるものの進んでいると評価できます。
もっとも、依然として、報告件数の伸びが芳しくない状況は続いており、今後も、本制度のよりいっそうの周知が望まれます。