水面下に消えた10件~報告推奨に応じない背景に何があるか

堀康司(常任理事) (2017年5月センターニュース350号情報センター日誌より)

機構が年報を公表

 本年3月、日本医療安全調査機構は、「医療事故調査・支援センター事業報告」(平成28年年報)を公表しました。昨年11月に公表された「医療事故調査制度開始1年の動向」では、医療法に基づく医療事故調査制度が開始された平成27年10月から平成28年9月までの1年分の運用状況がとりまとめられていましたが、今回の年報には、その後平成28年12月までの3ヶ月分の情報が付加されています。 

報告推奨後に「消えた10件」

 医療機関が報告対象事例となるか迷って医療事故調査・支援センター(以下、センター)に相談すると、センターでは複数名の医師・看護師で合議を行い、判断の視点や院内調査の際に確認が必要と思われる情報を助言しています。この助言は「センター合議」と呼ばれていますが、年報によると、平成27年10月から平成28年12月までの15ヶ月間で、合計94件のセンター合議が行われたとのことです。
 センター合議の結果、センターが「報告を推奨する」と助言した件は44件で、合議全体の46.8%を占めています。しかしながら、実際に報告がなされたのは34件に留まり、残る10件(約23%)については報告が行われませんでした。

 

 

不報告は増加傾向?

 「1年の動向」の時点では、センター合議は全体で78件でした。報告が推奨された34件のうち29件が実際に報告され、残る5件について報告はありませんでした。差し引きすると、「1年の動向」以後の3ヶ月で、センターが10件の報告推奨を行ったのに、5件については報告がなかったということになります。報告推奨総数に占める不報告の比率は50%と増大しています。
 年度末近くに報告推奨を受けた件の報告実施が新年度となることはありうるかもしれませんが、推奨を受けたら速やかに報告する必要がありますし、調査に時間がかかるとしても、最初の報告を行うまでにはそれほど時間を要しないので、年度をまたいだ報告数はそれほど多くないはずです。 

消えた背景に目を向ける必要性

 このように、医療機関からの助言の求めに対して、センターが報告を推奨したのに、その推奨に従わなかった件が2割を超えています。センターに助言を求めたということは、初動の時点では医療安全管理部門が相応に機能していたはずです。そうした医療機関でさえ、報告推奨を受けた件を報告しないことがあるという事実は、医療安全文化がまだまだ臨床の現場に根付いていないことを示していますし、そもそも最初からセンターに助言を求めることもせずに相当数の事故が埋もれたままとなっている可能性も示唆されます。
 最初に助言を求めた医療安全管理担当者の誠意と勇気を支えていくためにも、センターが中心となって「消えた10件」の背景事情を確認し、よりよい制度運用に繋げていくことが必要です。