平成29年医事関係訴訟統計から見た集中部型審理の現況

堀康司(常任理事) (2018年9月センターニュース366号情報センター日誌より)

統計から見た医療過誤訴訟の現況

 最高裁医事関係訴訟委員会のサイト(http://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html)で公表された平成29年の医事関係訴訟統計の速報値に基づいて、医療過誤訴訟の現状をまとめました。

 

新受は5年連続で800件台、4年連続で未済が増加

  平成29年1月から12月の間に、全国で新規に提訴された事件数(新受)は857件で、平成25年以来5年連続で800件台を推移しています。同じ間に1審が終了した事件数(既済)は782件で、その差は75件でした。
 平成16年に新受が1110件とピークを迎えた後は、平成17年から平成25年まで9年連続で新受を既済が上回っていました。しかし平成26年からは逆転し平成29年まで4年連続で既済が新受を上回っています。
 これまで、新受の増減に対しては約2年遅れて既済も増減する傾向が見られてきましたが、この4年では、新受件数が800件台で横ばいの一方で、既済件数は700件台後半から上昇傾向が認められず、未済事件は増加する傾向にあると言えそうです。

 

平均審理期間は4年連続で微増、5年ぶりの2年超に

 平成29年の既済事件の平均審理期間は24.2ヶ月でした。平成25年から4年連続で24ヶ月未満となっていましたが、5年ぶりに2年越えとなりました。

審理時間と結論との相関関係

 集中部が発足した平成13年から平成29年の平均審理期間、全事件審理延べ期間(平均審理期間×既済数)、認容率、認容+和解率は表1のとおりです。全国の裁判所が医療過誤事件の審理に費やす時間は、平成17年のピーク時と比較すると概ね1万ヶ月程度減少し、約2/3となったことがわかります。
 平均審理期間・全事件審理延べ期間と認容率・認容+和解率の相関係数の算定結果を表2に示します。1事件あたりの審理期間や、全国の裁判所が医療過誤事件の審理に費やした延べ期間が短い場合に、認容率や認容+和解率が低いという相関関係が認められます。
 1件あたりの審理期間が短いほど判決における認容率が低く(グラフ1)、全国の裁判所が医事関係訴訟の審理に費やした総時間が短いほど認容+和解率が低い(グラフ2)というように、審理期間と審理の結論との間にかなり強い相関関係が認められる点は、集中部型審理のあり方を検証する上での重要な指標となる可能性があります。

 

※訂正 366号12頁誌面記載の「1万時間」は誤りです。お詫びして訂正いたします。

 

表1          
既済
(単位:件)
平均審理期間
(単位:月)
全事件
審理延べ期間
(単位:月)
認容率 認容+和解率
平成13年 722 32.6 23537.2 38.3% 61.8%
平成14年 869 30.9 26852.1 38.6% 61.0%
平成15年 1035 27.7 28669.5 44.3% 66.5%
平成16年 1004 27.3 27409.2 39.5% 62.0%
平成17年 1062 26.9 28567.8 37.6% 64.0%
平成18年 1139 25.1 28588.9 35.1% 65.7%
平成19年 1027 23.6 24237.2 37.8% 65.6%
平成20年 986 24 23664.0 26.7% 60.0%
平成21年 952 25.2 23990.4 25.3% 59.4%
平成22年 921 24.4 22472.4 20.2% 60.1%
平成23年 801 25.1 20105.1 25.4% 60.0%
平成24年 844 24.5 20678.0 22.6% 59.8%
平成25年 803 23.3 18709.9 24.7% 58.9%
平成26年 793 22.6 17921.8 20.4% 54.1%
平成27年 787 22.8 17943.6 20.6% 56.6%
平成28年 790 23.2 18328.0 17.6% 57.1%
平成29年 782 24.2 18924.4 20.5% 61.3%
表2
審理時間と結論との間の相関係数
  認容率 認容和解率
平均審理期間 0.71 0.42
全事件
審理延べ期間
0.87 0.81
     
【評価の目安】
0.7~1.0 かなり強い正の相関がある
0.4~0.7 正の相関がある
0.2~0.4 弱い正の相関がある
0~0.2 ほとんど相関がない