柄沢好宣(嘱託) (2018年10月センターニュース367号情報センター日誌より)
研究班の発足
昨年9月号で、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」での検討状況をご紹介しました。その中で、医師法19条1項に基づく応召義務の存在との整合性を維持しながらの調整が大きな課題となることが予想されることに言及しました。
同検討会では、この点について、「医師を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究」として研究班を立上げ(主任研究者:岩田太氏・上智大学法学部教授)、既に本年8月29日と9月5日に会合がもたれたようです。
研究班による論点の中間整理
本年9月19日に開催された、第10回検討会において、研究班から、応召義務に関する論点の整理状況(中間整理)が示されました。
そこでは、応召義務の法的性質として、「医師の公共性、医師による医業の業務独占、生命・身体の救護という医師の職業倫理などを背景に訓示的規定」であるとした上で、医師法に応召義務が制定された昭和23年当時は、医療供給体制のシステム化が行われておらず、個々の医師の協力により医療提供体制を確保していた状況にあったのに対し、現在では医療機関相互の機能分化・連携により、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されているほか、医療の高度化・専門化も進んでいるとして、戦後間もない頃の医療提供体制を念頭に示されていたこれまでの応召義務の解釈・通知等のみでは、現代における応召義務のあり方を整理することは困難であるため、新たな解釈等を示すことが必要であるとされています。
その上で、研究班は、医師の働き方改革の中における応召義務のあり方について、「地域の医療提供体制を確保しつつ、他方で応召義務により医師個人に過剰な労働を強いることのないような整理を、個別ケースごとに改めて体系的に示すことが必要」として、応召義務の対象・範囲、医師法19条1項に定める「正当な事由」の範囲等の要素に注目しながらさらに論点の整理を進めていくこととしています。
なお、医師法19条1項に定める義務の名称・呼称については様々議論のあるところであり、研究班でも今後の検討課題としていくようですが、本稿では、研究班でも用いられている「応召義務」として統一しています。
実際の運用との両輪での議論を
戦後間もない頃と比べて医療提供体制に大きな変化があったことはそのとおりであると思いますが、応召義務が定められた医療の公共性や医業を独占する医師の職業倫理といったそもそもの前提については、今も変わりはないように思います。そうである以上、応召義務の解釈論だけが進められるのではなく、研究班による中間報告でも、「地域全体で医療提供体制を実質的にいかに確保するかという視点も重要」と言及されているように、医療現場に過剰な負担が生じないような医療提供体制を確保することも検討される必要があるのではないでしょうか。
今回の研究班による報告は、あくまでも中間的なものであるようです。引き続き、議論の状況を見守っていきたいと思います。