松山健(常任理事) (2019年11月センターニュース380号情報センター日誌より)
令和元年10月8日から始まった内閣官房健康・医療戦略室下の「標準的医療情報システムに関する検討会」での議論を受け、第3回医療等分野情報連携基盤検討会が令和元年10月10日に開催され、電子カルテの標準化などに向けた今後のスケジュールとして、標準的電子カルテの普及に向けた補助や方策を年度内にも取りまとめ、2025年度にかけて普及を推進していく見通しが示されました。
電子カルテの要件
平成11年4月から、厚生省(当時)の3局長(健康政策局長、医薬安全局長、保険局長)通達により、①真正性、②見読性、③保存性の3要件を満たすことで、診療録の電子保存(電子カルテ)が可能となりました。
これは、3要件を満たすかぎりどのようなソフトウェアでも用いてよいということであり、電子カルテ開発メーカー(以下、「ベンダー」)が電子カルテシステムを開発し、医療機関ごとに異なる電子カルテを用いる現状に至っています。
標準化の必要性
このようにベンダーがそれぞれにソフトを独自開発し、それぞれ独自の進化を遂げてしまったため、異なるベンダーの電子カルテ間ではデータのやりとりや連携が非常に困難で、施設間連携や地域連携の妨げになっているほか、医療機関としては、いったんあるベンダーの電子カルテを導入したあとに、他社の電子カルテに買い替えようと考えても、カルテデータの移行ができず、ベンダーによる顧客の囲い込み、買い替え阻害になっている等の問題が指摘されるようになりました。
このような問題を踏まえて、社会保障審議会・医療部会では、2018年7月27日に、電子カルテの仕様の標準化をすべしとの意見で一致し、部会長から厚労省に対して、「電子カルテのコア部分を規定し、その標準化を行う、いわば次世代電子カルテシステムの標準仕様構築は、非常に重要なテーマである。国(省庁)を挙げて、一大プロジェクトとして取り組む必要がある」と要請し、これを受けて、厚労省は2019年度予算に「医療情報化支援基金」(予算段階では「医療ICT化推進基金」の仮称)として300億円を計上し、この予算によって「基金」を設け、電子カルテの標準化に取り組む医療機関等の補助を行うことを決定しました。
「標準化」は仕様の統一・一本化?
標準化というと、電子カルテの仕様を統一してソフトウェアの規格を一本化することがイメージされますが、厚労省医政局研究開発振興課は、一本化へのハードルは相当高いので、どのような方向性が好ましいのかは今後の検討課題であり、また、標準化の対象は、システム全体ではなく、機能や医療施設間でのデータやり取りについての標準化であるとの見解を示すにとどまっています。
将来的には、ソフトウェアの仕様の統一が目指されるべきところですが、今後ある時点でドラスティックに標準化システムへの置き換えをなすのか、現状の異なるベンダー間のシステムを維持しつつ、データフォーマットの規格統一やコンバータシステムの導入によるデータ連携の推進を漸進的に進めていくのか、今後の検討会で議論されることになります。
まとめ
標準化がなされていないため、「3省3ガイドライン」(厚労省、経産省、総務省)と呼ばれる医療情報取り扱いに関するガイドラインはありますが、ベンダーとして電子カルテを開発するに際しての参入規制はなく、電子カルテだからといって全面的に改ざん等の恐れがないとは安心できないのが現状です。
また、①真正性の要件が守られる適正なソフトである限り、紙カルテに比して、改ざんの恐れは小さいとしても、標準化されていないことは、必要な情報の取得に漏れが生じ得る素地となります。
任意開示を受けても、すべての情報の提供を受けられたのか確認するのは困難ですし、証拠保全の際に、パソコン画面で各種データを統括する管理画面を示されても、果たして、存在する情報のすべての提供を受けられたのかどうか確信が持てないというのが実情です。
医療機関の間での連携の面からであれ、標準化が進んでいくことは、望ましいといえるでしょう。今後の進展を見守りたいところです。